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「毎日が、地獄みたいな日々」を乗り越えたオリックス“高卒大型ショート”紅林弘太郎(19)、スカウトも驚く成長の裏に何が?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/10/23 11:03
今季ショートのレギュラーに定着した紅林弘太郎。強肩を生かした守備やホームラン10本という記録は、さらなる飛躍を予感させる
駿河総合高時代の紅林を見て、「186センチの体を自分の思うように使いこなせる能力、肘から先の柔らかさ、三遊間から投げるボールの強さが素晴らしい」と惚れ込み、スカウト会議では「4年で一軍の戦力になります」と強く訴え、ドラフト2位で指名した。
2年目でのレギュラー定着は、「まったく予想していませんでした」と牧田は苦笑する。
「思った以上にプレッシャーに強い。動じない。メンタルが強い。常に平常心でやれるあの性格はいいものがありますね。
それに、開幕3連戦では記録上はエラーにならなかったミスがたくさんあった中で、それでも中嶋監督は使い続けてくれた。動きがおかしくなった時にも、一度サードに回したりして、ファームに落とさずに使い続けた。紅林は最高の場所で、最高の指導者のもとでやれているのかなと思います。それに応える紅林も素晴らしいと思いますけどね」
牧田がそう話すように、今の紅林は中嶋監督の我慢と愛情の結晶である。
「毎日が、地獄みたいな日々でした」
今年、紅林は9番・ショートで開幕を迎えた。出遅れていた安達了一が戻ってくると、一時は安達がショート、紅林がサードを守るなど流動的だったが、5月途中からは安達がセカンドに回り、紅林はショートに固定された。
打席での立ち姿や面構えは凄みがあり、とても19歳には見えないが、シーズン序盤は守備も打撃も課題が多かった。失策数はリーグワーストの17。最初は記録に残らない判断ミスも多く、つい「安達だったらアウトにできたんじゃないか」と思ってしまう場面も多かった。
それは、紅林自身が一番痛感していたことだった。
「自分はなんもできない。一軍レベルにいないんだなって、すごく感じました」
エラーをしても、打てなくても、辛抱強く使い続けてもらえる。はたから見ればこんなに恵まれた環境はないが、紅林は「毎日が、地獄みたいな日々でした」と振り返る。
守備で足を引っ張ったり、チャンスで凡退するたびに自己嫌悪に陥った。