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「毎日が、地獄みたいな日々」を乗り越えたオリックス“高卒大型ショート”紅林弘太郎(19)、スカウトも驚く成長の裏に何が?
posted2021/10/23 11:03
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
KYODO
オリックスの高卒2年目・紅林弘太郎(くればやし・こうたろう)が、一軍でシーズンを完走しようとしている。
レギュラーシーズンは残り1試合となったが、今季はこれまで開幕から135試合に出場し、そのうち113試合がショートでの先発出場。25年ぶりの優勝をかけてロッテと激しく争うオリックスにとって、19歳の大型ショートは欠かせない存在となっている。
「そんな余裕あるんだ、ってびっくりしましたよ」
高校時代、紅林のスカウトを担当した牧田勝吾編成部副部長は、満面の笑みで10月10日夜の紅林とのやりとりを明かした。
悪夢がよぎったデットボール
その日のデーゲームのソフトバンク戦で、千賀滉大の150キロのストレートが紅林の左腕を直撃した。紅林が「折れたと思いました」と振り返るほどの激痛が襲い、苦悶の表情でうずくまった。治療のためベンチに下がったきりグラウンドには戻らず、病院に直行した。
中嶋聡監督の表情も、ベンチの雰囲気も、凍りついた。そのわずか8日前に主砲の吉田正尚が右腕に死球を受けて骨折し、離脱したばかり。最悪の事態が誰しもの頭をよぎったが、幸い紅林は骨折はしていなかった。
その夜、心配した牧田が「大丈夫か?」と紅林に連絡すると、「大丈夫です」という返事が返ってきた。胸をなでおろしていると、続けてこんなメッセージが来た。
「牧田さん、明日ドラフトですよね。頑張ってくださいよ」
日本中のオリックスファンが紅林の左腕の状態に気をもんでいる中、翌日のドラフト会議を気にかける紅林。牧田は言う。
「『お前そんな余裕あるんだ。すごいな』って(笑)。普通なら自分のことで精一杯になってもおかしくないのに、世間はどんな動きなのかな、あ、明日はドラフト会議だ、あれから2年経ったんだな、牧田さん頑張ってくださいよ。そんなふうに思いを巡らせて、連絡してくる紅林弘太郎、どう思います? 普通は『大丈夫です』で終わるのに、こっちの心配までしてくれる。なんなんですかね、あいつ(笑)」