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“代表帰り”の冨安健洋がアーセナルレジェンドの敵将ビエラに狙われた?「良い瞬間もあれば悪い瞬間も…」課題は〈偽SB〉か
text by
田嶋コウスケKosuke Tajima
photograph byAFLO
posted2021/10/21 17:02
アルテタ監督から指示を受ける冨安とティアニー。両SBのポジショニングは攻守におけるアーセナルの生命線だ
不慣れな「偽SB」のタスクがミスの要因に
むしろ混乱したのは、自軍のポゼッション時だろう。不用意な形でボールロストしたのは少なくとも2回あった。
この試合のアーセナルは、トーマス・パーティーをワンボランチにした4−3−3を採用した。チームは冨安加入後から4−2−3−1のダブルボランチを主に用いてきたが、クリスタルパレス戦では戦い方を少し変えてきた。
これまで4−2−3−1採用時の冨安は、ビルドアップ時に右サイドバックの位置から中央に絞り、3CBの一角(右CB)としてパスワークに絡んでいた。ところがこの試合の序盤では、ビルドアップ時に「偽SB」(※注)の役割を担った。
(注:普通はタッチライン際にいるSBが中央の位置まで絞り、さらにアンカーと同じ高さまで位置を押し上げてビルドアップに参加すること)
チームがファイナルサードまでボールを進めると、フォーメーションを2−3−5に変形。冨安はポジションを中央前方に上げて、中盤「3」の位置でプレーし、アンカーのパーティーと横並びになってパスワークに加わった。
そのため、攻撃参加は限定的だった。冨安の前方では、インサイドMFのエミル・スミスロウが「相手SB&CBの間のスペース」に、右FWのペペが「タッチライン際の大外レーン」にそれぞれ入り、日本代表DFが攻撃に参加できるスペースは限られていた。むしろ、彼らの後方で「守備のバランスを取ること」、「パスコースを作ること」に重きが置かれていたように思う。
こうなると、冨安の役割は守備的MFのそれに極めて近くなる。最終ラインと違い、中盤では四方から敵にプレッシャーをかけられることになるが、この状況下ではまだまだ不慣れな印象を残した。中盤で背後から敵に寄せられて簡単にボールロストした前半12分のミスには、MFや右SBを本職としていない冨安の課題が見えた。
ただし、日本代表が偽SBとしてプレーしたのは、前半14分にクリスタルパレスがシステムを変更するまで。それ以降は、自陣の右サイドで守備に追われ続けた。
さらに後半になると、アーセナルはMFアルベール・サンビ・ロコンガを投入し、2ボランチの4−2−3−1にシステムを変更。ボランチが2枚になったことで、右サイドにおける冨安の守備負担は著しく軽減された。システム変更に伴い、ビルドアップ時の役割も偽SBではなく、従来の4バックのそれに戻ったので、偽SBとしてのプレー時間は極めて限定的だった。