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「僕には才能がない。だからこそ上を」青森山田・松木玖生(18)が明かす“ビッグマウス”の裏にある思い《FC東京入りの真相》
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2021/10/20 17:04
1年生の頃から中心選手として青森山田を牽引してきたMF松木玖生(3年)。来季からのFC東京加入内定を発表し、気持ち新たに選手権予選に臨む
「もちろん、高卒で海外に行きたい気持ちは強かったです。ですが、向こうでいろんな現実を見てきたことも事実でした」
少なからず手応えはあった。海外の選手たちに混ざり、練習試合ではゴールも決めた。実際にオファーをもらったクラブもあった。だが、それ以上に自分が目指すべき場所のレベルの高さを目の当たりにしたことが、松木の考えを大きく動かした。
「リーグアン(フランスリーグ)のトップチームの試合をスタジアムで観戦して、レベルの高さをまざまざと感じました。自分があのピッチでできるか?と聞かれたら、今の段階ではできないと思いましたし、まだまだ(実力が)足りないと感じたんです。
もともとフランスリーグには『個で這い上がる』『個で戦う』という面でのレベルの高さを感じていたリーグで、今回実際にフィジカルの強い選手が個人技で打開するシーンやCBの選手が前に持ち出してラストパスを出すシーンを目の当たりにしました。今の自分に決定的に足りないものは足元の技術。ボールを奪うまではいいのですが、そこから(相手DFを)1枚剥がしても、2枚目をうまく剥がせるかといえば、まだ判断の材料も技術も足りない」
登ろうとしていた階段は、予想以上に高かった。多少のショックはあったとも吐露する。ただ、すぐに切り替えられることは彼の強みだ。海外での経験によって現在地を測った松木は、いくつかのJクラブを観察するうちに、FC東京のサッカーに大きな魅力と可能性を見出した。
長所を磨き、短所を克服できる
「ボランチの青木拓矢選手や安部柊斗選手のセカンドボール回収のスピードが凄く効いています。僕もセカンドボールの回収を得意としているので、そこでいいイメージを持ってプレーできるんじゃないかと思ったんです。FC東京でプロとしての土台を築いてからでも(海外挑戦は)遅くはない、と。
セカンドボール回収、ボール奪取力、展開力という自分の長所を発揮しながら、高萩洋次郎選手、森重真人選手、三田啓貴選手などからボールを運ぶ力、局面を打開する力を学んで短所をきちんと克服する。そこから長友佑都選手、武藤嘉紀選手、青森山田の先輩でもある室屋成選手のように、世界に羽ばたきたいと思えたんです」
海外でプレーすることに憧れを抱く選手はたくさんいる。海を渡るハングリー精神は重要だが、若い世代ゆえ、憧ればかりが先行して周りが見えなくなるケースも増えてきたように感じる。松木のように自分の現状と実力を冷静に照らし合わせて考えられる選手がどのぐらいいるだろうか。
もう一度自分を見つめ直し、すべき判断を下した。言葉や行動から滲み出る松木の「強気」は、決して驕りから生まれるものではない。学びと成長を求める「向上心」がそう見せているのだろう。