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地味でミスが多くても、バイエルンで長く活躍できる理由…トーマス・ミュラーはなぜ「オフザボールの王様」と呼ばれるのか
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/10/13 17:00
決して技術は高くなく、メッシやC・ロナウドのような華やかさもないものの、ミュラーはバイエルンの象徴として輝きを放ち続けている
「多くのものを学べる」とアンリも称賛
では、ミュラーの何がすごいのか? ずばり、ボールを持っていないときの動きの質である。そうしたプレーが時代の流れとともにどんどん必要になってきたという背景も、ミュラーにとってはポジティブに影響した。
元フランス代表のFWティエリ・アンリが、次のように称賛していたことがある。
「ロナウドとメッシは別格の存在だ。彼らをコピーすることはできない。でもトーマス・ミュラーのプレーからは本当に多くのものを学び取ることができる。チームのために多く働き、守備の局面でも汗をかき、攻撃へと走り出していく。選手というのは、彼のようにプレーしなければいけないと思うんだ。もし僕に息子がいてサッカーをしていたら、こうアドバイスをするよ。『ミュラーのようになれ』ってね。ミュラーはチームのために求められるプレーをしてくれるんだ。言葉でいうのは簡単だよ。でも、それが一番難しいことなんだ」
チームのために、試合で求められるプレーを実践できる選手。『シュピーゲル』誌は「メッシはドリブルの王様。デブライネはパスの王様。そしてミュラーはオフザボールの王様だ」と評したことがある。
あえて相手のプレスを受ける位置でパスを引き出す
オフザボールの動き。直訳すればボールを持っていないときの動きとなる。サッカーの試合は90分だが、各選手がボールに触れている時間は平均2分にも満たないと言われている。つまり、残りの88分間はボールを持っていない。
その88分間に、個々がどのような意図で動くかが重要になる。
例えば、指導現場で「攻撃的選手がパスを受けるためにはどうしたらいい?」と聞くと、「フリーなポジションを探す」と答える選手が多い。その通りだ。しかし、試合の流れを作るために必要なボールを受けるポジションは、必ずしもフリーな状況だけではない。
あえて相手のプレスを受ける位置でパスを引き出す必要もある。そうすることで自分に複数選手を引きつければ、他の選手がプレーしやすい状況を作り出せる。ミュラーはそうした狙いを持ってパスを要求しているので、相手がダッシュでプレスに来ても、ダイレクト、あるいはトラップ後にすぐにボールを“逃がす”ことができるのだ。