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地味でミスが多くても、バイエルンで長く活躍できる理由…トーマス・ミュラーはなぜ「オフザボールの王様」と呼ばれるのか
posted2021/10/13 17:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
世界にはたくさんの優れたサッカー選手がいる。それぞれのプレーには特徴があって、ファンにもそれぞれ好みがある。一概に誰が一番かなんて決められない。ただ、チームに必要な選手という観点で考えたときに、バイエルンに所属するドイツ代表のFWトーマス・ミュラーの名前は間違いなくあがってくるはずだ。
90年代にデビューしていたら居場所はなかった
正直、見た目の派手さや華やかなプレーで観客を沸かせる選手ではない。ミュラー自身、「トリックはできないよ。魔法じみたプレーを見たがる人もいるけど、それは僕の専門分野じゃない」と答えている。
実際にミュラーのプレーを見ていると、トラップミスもあれば、クロスボールが見当違いの方向へ飛んでいってしまうこともある。ボールをミートしきれずに枠を外してしまうシュートも少なくない。
そんなミュラーが、ドイツサッカーの盟主バイエルンの中心選手として長く活躍できているのはなぜだろうか?
確かに、ゴール数は多い。
2021年9月24日のフュルト戦での得点により、バイエルン通算ゴールを218点に伸ばし、カールハインツ・ルンメニゲの記録を抜いて史上3位となった。
これはゲルト・ミュラーの566点、ロベルト・レバンドフスキの305点に次ぐ記録だ。20歳でレギュラーポジションを獲得した最初のシーズンは、公式戦52試合で19ゴール。直後の南アフリカW杯では5得点をあげて得点王に輝いた。
ゲルト・ミュラーと同じ苗字を持つことから、ドイツでも“後継者”として大きく持ち上げられた。だが、プレーヤーとしての特徴を見ると、トーマス・ミュラーは典型的な点取り屋タイプではない。
ドイツでは「ミュラーが90年代にデビューしていたら、おそらく居場所はなかっただろう」という意見がある。
当時のドイツサッカー界にはマンマークの徹底が残っており、グループやチーム戦術で相手を攻略する視点が少なかった。そうなるとセンターフォワードとしてはフィジカルが弱く、トップ下としては創造性に欠け、サイドの選手としてはスピードが足りないミュラーに、生きる場所がなかったというわけだ。