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サイレンススズカの「伝説の毎日王冠」の同日に…セイウンスカイが京都大賞典で披露した「もうひとつの歴史的逃走劇」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/10/09 17:00
京都大賞典で一線級の古馬を撃破し、「98年世代」のレベルの高さを証明したセイウンスカイ
横山典弘はいかにして「魔法」をかけたのか
ラスト400mとなった直線入口、ここでようやく、横山は手綱をしごいてゴーサインを出した。勢いがついて外に膨れかけたセイウンスカイを内埒沿いに誘導し、左ステッキで叱咤する。
それに応えたセイウンスカイは耳を絞ってスパートし、後続を突き放しにかかる。驚くほどの二の脚を繰り出し、2番手との差を再び2馬身ほどにひろげた。
2番手集団の内からメジロブライトが猛追してきたが、さらに伸びつづけたセイウンスカイが首差で凌ぎ切り、先頭でゴールを駆け抜けた。
ハイペースで大逃げを打ち、急にスローに落として、最後にまた一気にペースを上げるという、ほとんど見たことのない極端なアップダウンのレースを自分でつくり、古豪たちを蹴散らしてしまったのだ。
「何も行かないのでハナを切ったが、引っ張らずに馬任せだった。3~4角でひと息入れて、そこでうまく後続に脚を使わせることができたね」(「週刊競馬ブック」1998年10月12日発売号より抜粋)
レース後、横山はそう話した。
ラスト600m地点からゴールまでのラップは、12秒2-11秒1-11秒5。
直線で逃げ馬にこれだけの脚を使われたら、後続はたまらない。
横山が、後続に最も大きく差を詰めさせたのは、ラスト1000m地点から600m地点までの2ハロン(400m)だったのだが、そこのラップは13秒5-12秒2だ。13秒5のときは後続も楽だっただろうが、12秒2のところで差を詰めるには、後続は11秒台の脚を使わなければならなかった。
「馬任せ」と言いながら、横山はこのようにラップをコントロールし、強豪たちを消耗させたのだ。見事な「マジック」だった。
東西で逃げ馬が伝説を作った一日
この少し前に行われた東京のメインレースは、サイレンススズカがエルコンドルパサーやグラスワンダーといった3歳の強豪外国産馬を突き放した第49回毎日王冠であった。
東では稀代の快速馬による超高速の逃げ、西では、名手のタクトによる変幻自在の逃げという、まったくタイプの異なる「歴史的逃走劇」が、同じ日に見られたのだ。
そうしたレースの目撃者になれることを期待しながら、今週も、東西のスーパーGIIを見届けたい。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。