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サイレンススズカの「伝説の毎日王冠」の同日に…セイウンスカイが京都大賞典で披露した「もうひとつの歴史的逃走劇」 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2021/10/09 17:00

サイレンススズカの「伝説の毎日王冠」の同日に…セイウンスカイが京都大賞典で披露した「もうひとつの歴史的逃走劇」<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

京都大賞典で一線級の古馬を撃破し、「98年世代」のレベルの高さを証明したセイウンスカイ

皐月賞馬ながらファンの評価は「7頭立ての4番人気」

 セイウンスカイの京都大賞典出走を、「無謀な挑戦」と見る向きは少なくなかった。

 なぜかというと、相手となる古馬勢が恐ろしく強かったからだ。

 1番人気に支持されたのは、4連勝でこの年の天皇賞・春を快勝していた河内洋のメジロブライト。

 2番人気は、メジロブライトが勝った天皇賞・春でも、サイレンススズカが勝った宝塚記念でも2着だった熊沢重文のステイゴールド。3年後のドバイシーマクラシックと香港ヴァーズを武豊の手綱で制することになる。

 3番人気は、前年の有馬記念を制した藤田伸二のシルクジャスティス。

 セイウンスカイは4番人気だった。

 5番人気のローゼンカバリーも、前年までGIIを3勝していた強豪だ。

 このメンツに恐れをなしたのか、出走馬はわずか7頭にとどまった。

20馬身差の大逃げから「歩き」のような急減速

 数分前に終了した東京のメインレース、毎日王冠の興奮が京都競馬場にも残るなか、第33回京都大賞典のゲートが開いた。

 1枠1番から出たセイウンスカイは、横山が仕掛けたわけではないのに、抑え切れないような感じでハナに立った。

 耳をピンと立てて、まったく力むことなくさらに加速。正面スタンド前では2番手を5馬身ほど離して単騎で逃げている。

 快調に飛ばすセイウンスカイは、1、2コーナーを回りながら、リードを10馬身以上にひろげていた。スタンドがどよめいた。ほかの6頭は一団になっている。

 ゲートから向正面入口までのラップは、13秒4–11秒0–11秒2–12秒0。

 向正面なかほどで、セイウンスカイと2番手との差は20馬身ほどになっていた。

 さすがに、これは暴走に見えた。ゴールの遥か手前でスタミナが尽きてもおかしくない。皐月賞を勝ちながらダービーで4着に敗れたセイウンスカイは、スピードが武器で、スタミナ勝負は得意ではないように思われていた。少なくとも、筆者はそう見ていた。

 3コーナーの坂を上りながら、セイウンスカイが急にペースを落とした。

 坂の頂上のラスト800m付近では、2番手集団が5馬身ほどまで差を詰めていた。

 坂を下りながらラスト600m地点で追いつかれ、今にも呑み込まれそうになった。

 向正面入口からラスト600mまでのラップは、12秒2-12秒3-13秒0-13秒5-12秒2。

 ペースの落ち方と、差の詰められ方があまりに激しかったので、セイウンスカイだけが歩いているかのように見えた。

 逃げた馬が勝負どころで後続を引きつけてからラストスパートするというシーンはよくある。しかし、いくら何でも、これは「引きつけすぎ」に思われた。このまま止まってしまうのではないかと心配になるほどだった。

 ラスト600mを切っても、セイウンスカイは先頭を譲らない。横山の手は動いていない。セイウンスカイも耳を立てたままだ。

【次ページ】 横山典弘はいかにして「魔法」をかけたのか

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