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《追悼》10万人の地鳴りのような合いの手…作曲家・すぎやまこういちが遺した傑作『GIファンファーレ』日本ダービー秘話
posted2021/10/10 06:01
text by
梅津有希子Yukiko Umetsu
photograph by
陸上自衛隊中央音楽隊提供
号砲を待ち望む大観衆の興奮を最高潮に導く音色は、もはやレースの一部。だが、演奏する人々のことを我々はあまりにも知らない。そもそも彼らは何者なのか? ベールに包まれた音楽隊の現役指揮官が取材に応じた。
◆◆◆
「パーン! パパパーン! パパパーン……!」
スターターの合図と同時に響き渡る、きらびやかなファンファーレ。スタンドから手拍子が沸き起り、「オイ! オイ! 」という東京競馬場を揺さぶる地鳴りのような合いの手が続く。10万人を超える観客の興奮を最高潮に導く日本ダービーのファンファーレは、毎年陸上自衛隊の中央音楽隊が担当していることをご存知だろうか。
同隊隊長の樋口孝博1等陸佐が語る。
「10万人以上もの大観衆の前で演奏出来る会場なんて他にありませんので、指揮棒をかまえ、スターターの合図を見逃さないよう、とにかくすごい集中力を必要とします。観客から手拍子が自然発生しますが、実際の指揮のテンポと違うため、正直にいうとやりにくい(笑)。『違うんだー!』と思いながら、必死で指揮に集中します。でも、最初の頃は誰もこの曲を知らないので手拍子なんて全くなかった。それだけこのファンファーレが浸透したということでしょうね」
楽譜の第一印象は「5拍子か……。難しいな」
来年創隊70周年を迎える中央音楽隊は、まさに日本を代表する音楽隊だ。全国に21団体ある陸上自衛隊音楽隊の中でも最高峰の組織である中央音楽隊は、国賓や公賓などの歓迎行事やオリンピック、天皇皇后両陛下のご成婚パレードなど、各種式典での演奏を担っている。
日本最高峰のレースで、彼らはいつから演奏しているのだろうか。
「中央音楽隊がダービーの演奏を担当するようになったのは、'74年からです。現在演奏している『GIファンファーレ』は'86年から使用しており、それまではどこの競馬場でも既成のファンファーレやマーチなどを演奏していたようです」