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「パリ五輪の目標は全7階級と団体の金」柔道男子新監督・鈴木桂治が挑む“継承”という名の重責
posted2021/10/03 11:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
KYODO
9月28日、全日本柔道連盟は井上康生氏の退任に伴い、男子日本代表監督に鈴木桂治氏を選出した。
東京五輪時点から有力視されており、予測通りに選ばれたことになるが、その舵取りには大きな期待が集まる。
男子柔道日本代表は、東京大会では計5つの金メダルを獲得。現在と同じ7つの階級での実施となった1988年ソウル大会以降最多であり、8階級だったモスクワ(日本はボイコット)、ロサンゼルスを含めても最多と、その活躍は鮮烈な印象を残した。2012年ロンドン五輪で金メダルなしに終わったあと監督に就任し、今日まで9年にわたり職責を担って日本代表をここまで引き上げた井上氏の功績は大きい。そのあとを受けての就任は、誰であっても容易ではない。
ただ、鈴木氏のこれまでを振り返れば、最も適した人選だと言える。
現役時代は04年アテネ五輪100kg超級で金メダルを獲得。世界選手権でも無差別級と100kg級で優勝し、全日本選手権で4度優勝するなど、一時代を築いた柔道家であった。また、基本とする100kg級では井上氏とライバル関係にあり、好勝負を繰り広げた。
12年に第一線から退き、母校の国士舘大学柔道部監督を経て、同年秋から日本代表のコーチに就任。井上氏とともに重量級の再建を担ってきた。井上氏が何をしてきたかを熟知する立場にある。
キーワードは「継承」
就任会見で、鈴木氏は抱負をこう語っている。
「今、監督として大きな改革をする考えはありません。井上監督体制の9年間で築いたものを継続していくことをいちばんに考えたいと思っています。培ってきたものをさらに深掘りし、日本柔道を継承する気持ちを変えず、今後3年間、しっかりパリに向けて務めさせていただきたい」
そこにも適役だと思える要因がある。
大きな改革を考えていない点だ。
体制が変わるとき、それを率いる者は得てして自分なりのカラーを色濃く出したいという思いに駆られる。それまでの路線を変えたい、手を加えたいと考える。ただ、それがうまくいくことは決して多くはない。
ましてや井上氏は、客観的な裏付けに基づき強化を具体化する手法、選手と構築した信頼関係、さらに結果に結びつける過程を含めて効果的な強化に成功し、日本代表に特筆すべき大きな成果をもたらした。
なおさら、いたずらに大きな変化を求めるのは得策ではない。むしろ、まずはそれらの過程をいかに継承できるかが鍵を握る。継承すること自体もたやすくはないが、その点、コーチとして長年過ごしてきた経験がモノを言うはずだ。