オリンピックへの道BACK NUMBER
「パリ五輪の目標は全7階級と団体の金」柔道男子新監督・鈴木桂治が挑む“継承”という名の重責
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2021/10/03 11:02
井上体制では重量級担当コーチを約9年間務めた鈴木氏。2歳年上の井上氏から監督を引き継ぐ
大枠を変えないという前提のもと、ディティールを詰めてよりよい方向へ進めようと考えていることは、先のコメントの「深掘り」という言葉に表れている。
あわせて、「睡眠は重要ですし、筋肉をほぐすことなどだけではなく、内面的な疲れをとる形を」とコンディションなどの重要性に触れた。
退任した井上氏は、鈴木新監督に対しエールをおくる。
「鈴木先生は度胸も先見の明もあり、いろいろなアイデアも持っています。私にはできないたくさんの力を持っています」
そして、こう期待を寄せる。
「(最重量級の復権を)私自身、ほんとうの意味で達成することができなかったので、その部分を成し遂げてくれると思っています」
気骨の人が掲げた大きな目標
思えば、現役時代から気骨あふれる柔道家でもあった。2010年の全日本選手権に出場したとき、鈴木氏は準々決勝で敗れた。そのあとの記者会見で、他の敗退した有力選手たちについて尋ねられた。
「もっと積極的に、勝ちに行く姿勢を見せないと」
自身が結果を出せなかった中、他の選手について口を開くのをためらっても仕方ない状況で、あえて苦言を呈した。そこには自身の立場がどうこうよりも、柔道を思えばこそ、そして言及することになった選手たちのこれからを思えばこその心情があった。柔の道を貫くその姿勢は「気骨」と表現するにふさわしい。
自国での開催で万全な準備を整えて迎えられた東京五輪と、3年後のパリ五輪とではおのずと状況は異なる。そういう点でも、困難は待ち受けるだろう。
それでも、日本柔道の揺るぎない目標を掲げる。
「パリオリンピックの目標は全7階級と(混合)団体の金メダルです」
大きな目標を、てらいなくすっぱり言い切るのも気骨の人らしかった。