ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「すでに世界が見習うべきモデルだが…」手術明けのトルシエが語った日本の課題<マリノスがブンデスリーガに参加したら?>
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/10/02 11:01
トルシエが日本代表監督に就任したのは98年、43歳のとき。まさに働き盛りの熱量があった
日本人選手も同様にヨーロッパでプレーしているが、ブラジル人たちと同じクラブではない。ヨーロッパカップや国内リーグに優勝できるクラブではない。日本とブラジルは同じモデルであっても、あるいはコートジボワールやナイジェリアと同じモデルであっても内実は異なる。選手が実際に経験しているレベルには違いがある。CLやELに勝てるクラブなのかどうか。常にタイトル争いをしているクラブなのか。その点で日本はまだ遅れている。
ヨーロッパでプレーするのは第一段階だが、そこから先は日本人選手がトップクラブでプレーすることだ。それこそが埋めるべき差だ」
――それにはまだ時間が必要ということでしょうか?
「選手の技術的なレベルの問題であり、人間的なクオリティの問題だが、トップクラブの若い日本人選手に対する認知度と評価の問題でもある。日本人がPSGの扉を叩いても、PSGの評価とリクルート戦略はすでに評価を得ている国にまず向けられる。PSGもレアルもバルサも、日本の選手を優先して獲得しようとはしない。彼らが目を向けるのはブラジルやアルゼンチン、ウルグアイなどであり、あるいはフランスであったりする。
日本の認知度はいまだに低い
だからたとえ日本人が彼らと同じレベルにあっても――私はクオリティに関して、日本人が彼らにひけをとっているとはまったく思わないが――PSGが探すのはブラジル人でありアルゼンチン人やイタリア人、フランス人だ。選択肢として日本人は最後だ。それは選手のクオリティとは関係がない。あくまでも認知度の問題であり、それが一般的な評価でもある。PSGのサポーターにしても、日本人をそこまで評価してはいない。認知されるまでには時間が必要だ。
日本人はヨーロッパ進出には成功したが、フランスで高く評価されるまでにはまだまだやるべきことがある。サポーターもメディアも、まだ日本人選手の獲得に積極的ではない。それは現状ではどうしようもないことだ。日本人が劣っているわけでも、日本サッカーが劣っているわけでもない。認識の問題であるからだ。
フランス人が車を買う際に、日本車を選ぶことはあってもモロッコ製は選ばない。それと同じだ。自動車やコンピュータ、携帯電話などでは、日本は世界のトップと認知されている。ベトナムが優れた自動車を製造しても、フランス人が認めるまでには時間がかかる。
日本製自動車への信頼は高い。サッカー選手を選ぶ際には、ブラジル人への信頼の方が日本人より高い。私が話しているのは、同じレベルの選手の場合だ。そうした障害があることを日本は認めねばならないし、そのうえでサッカーをさらに進化させねばならない。障害を取り除くまでにはまだ時間がかかる」