甲子園の風BACK NUMBER
《当落線上から智弁和歌山優勝メンバーに》“高嶋前監督の孫・奨哉”を支えたイチローの言葉「プレッシャーがかかる中で…」
posted2021/08/30 11:05
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama
ベスト8の顔ぶれが決まったあたりから、野球ファンは徐々にざわつき始めた。ベスト4が出揃うと、その輪は広がる。決勝に2校が勝ち進むと、対戦前から大きな話題となった。
「両チームの見分けがつかない」
史上初となった「智弁」同士の決勝戦、一目見ただけでは選手が判別できない中、存在感を見せたのが「智弁」との縁が最も深い男だった。
初回に2点を先制した智弁和歌山は、なおも2死二、三塁と智弁学園のエース西村王雅を攻める。打席に入るのは、7番・高嶋奨哉。相手バッテリーも、典型的なプルヒッターと分かっている。外角中心に攻められて追い込まれた5球目はやはり、決め球も外角のチェンジアップ。それでも、高嶋は強引に引っ張りレフト前へ運んだ。一塁ベースを回ったところで、二塁走者の本塁生還を確認すると、両手のこぶしを突き上げた。
「試合になったら目の色を変えて」
「智弁対決となって相手に知り合いがいる中で、試合になったら目の色を変えて立ち向かっていくことを徹底していました」
膠着状態を打開したのも、高嶋のバットだった。智弁和歌山は2回に2点を返され、3回以降は両チーム無得点が続いていた。次の1点が重くなる試合展開。6回、高嶋が先頭で打席へ入る。
高々と打ち上げた打球に、智弁学園の三塁手がグラブを構える。打球が、なかなか落ちてこない。三塁手は浜風に流される白球をフラフラとした足取りで追ってキャッチしようとしたが、グラブで弾いた。
スコアボードに「E」が点灯し、高嶋は二塁に到達。後続のバントで二塁と三塁の間に挟まれてアウトとなったものの、ここからチャンスが広がり、1番・宮坂厚希のタイムリーで両チームがほしかった1点を智弁和歌山が奪った。