濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アクトレスガールズ、涙の“聖地”大一番…「自分のことより周りのこと」の精神が“闘う女優たち”を強くする
posted2021/08/30 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
8月13日のアクトレスガールズ後楽園ホール大会は“プロレスの演技”から始まった。
選手の多くが芸能活動をしている“女優によるプロレス団体”アクトレスガールズは「アクトリング」というリングを使った演劇・エンターテインメント公演も開催している。その演劇のアクションシーンがプロレスの形式で、所属レスラーも登場するが、選手ではない女優たちもリングに上がる。だから後楽園大会で組まれたのはアクトリング「提供試合」ではなく「提供公演」となる。闘うのは選手・女優本人ではなくキャラクター(役)だ。
タッグマッチで勝利したのはホシキアリサ。昨年、スターダムでの現役生活を終えた元レスラー・星輝ありさだ。現在の芸名は星希アリサ。「ホシキアリサ」はあくまで役名である。
動きや技は完全にプロレスのもの。しっかり練習してリングに上がっていることも伝わる。しかしアクトリングの「公演」とプロレスの「試合」はあくまで別物だ。もちろんプロレスもエンターテインメント要素が強いのだが、そこには役、キャラクターとは違うリアルな感情がこもる。人と人との関係性が、試合にも現れる。
週末レスラー五十嵐の引退試合で、本人以外が泣いていた
この大会では、五十嵐乃愛の引退試合が行なわれた。米山香織と組み谷もも&向後桃と対戦。五十嵐はふだん一般の会社員として働き、週末だけレスラーとして活動してきた。他の選手とスケジュールが合いにくい中、土曜日の練習に付き合ってくれていたのが谷と向後だったという。
感謝の気持ちがあるから大事な試合で闘いたい。そういうことも、プロレスにはある。また五十嵐は欠場中の同期、高瀬みゆきと入場した。自分が主役の引退試合、入場は晴れ舞台の中でも特に大きな見せ場。なのに同期と一緒にいたかったのだ。そういう性格だから、周りに愛されたのだろう。引退を決めたのは責任感からだった。ケガのリスク、それにコロナ禍。プロレスは好きだが、会社に迷惑はかけられないという思いがあったという。
谷も向後も米山も試合前から泣いていて、谷が五十嵐を追い込むとパートナーの向後が「ダメ!」と邪魔をした。五十嵐との試合、リングで過ごす時間を終わらせたくなかったのだ。最後は向後が3カウントを奪って泣いた。インタビュースペースではオフィシャルスタッフが質問する声を詰まらせていた。
そんな中で、五十嵐本人だけが「何も悔いはないです」と笑顔を見せた。アクトレスガールズで学んだこと、感じたことは何かと聞かれて、彼女はそこにいる人間の凄さだと答えた。
「先輩は後輩のことを思って行動する。自分のことより周りのこと。後輩はそんな先輩を見て、次の世代につなげる。ここにいたら当たり前のことなんですけど、社会人をしているとそれが特別なことなんだっていうのが分かるんです」