濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アクトレスガールズ、涙の“聖地”大一番…「自分のことより周りのこと」の精神が“闘う女優たち”を強くする
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/08/30 11:00
8月13日のアクトレスガールズ後楽園ホール大会、セミファイナルにて対戦したSAKIと清水
SAKIvs.清水は、タイトルを賭けた“チャレンジマッチ”に
セミファイナルのAWGシングル選手権試合が、まさにそうだった。チャンピオン・SAKIが指名した相手は清水ひかり。両者ともに、アクトレスガールズ 内の興行ブランド「Color's」所属だ。五十嵐と同じ2017年デビューの清水はシングル五番勝負の途中で負傷による長期欠場を経験。復帰後、五番勝負を再開していた。SAKIとのタイトルマッチは、五番勝負の最終戦でもあった。
他団体出身、所属選手の中で最もキャリアの長いSAKIは、後輩たちにプロレスの楽しさを教えてきた。徹底的に厳しく指導してふるいにかけるのは新弟子が山ほどいた時代のやり方。まずはプロレスの楽しさを知ってもらい、リングでイキイキとしてきたところで次の段階に入ればいい。タイトルマッチで清水と闘うこともその一環だ。大勝負のプレッシャーや負ける悔しさを知って、さらに成長してほしかった。SAKIは言う。
「プロレスは楽しいだけじゃない。そのことを知ると、もっと楽しくなる」
タイトルマッチでありながら、実力差のある“チャレンジマッチ”の要素もある一戦。シングルのベルトをかけた試合がセミに組まれたことも物議を醸した。
ゴングが鳴ると、得意の蹴りやフットスタンプをはじめ清水の思い切った攻撃が目立った。場外戦でも先手を取る。とはいえSAKIの懐は深かった。攻めても攻めても主導権を奪い返されてしまう。清水はそこからまた反撃し、何度も雄叫びをあげた。体力が奪われていく中で、気持ちを奮い立たせるしかなかったのだろう。そして気力も体力も使い果たして、満足に動けなくなったところでSAKIがトドメを刺した。
チャンピオンとして、SAKIにはSAKIの強い決意があった。清水のためにも、強くカッコいい先輩でなくてはいけない。「メチャクチャ気合い入れて、抜群にコンディション整えてきました」とSAKI。清水の成長も感じることができたという。
「ひかりは普段すごく明るいのに、リングだと内にこもっちゃうところがある。でも今日はずっと目が生きてましたね」
敗北以上に清水が悔しかったこと
一方の清水は試合が終わった瞬間から涙が止まらなかった。これまでに感じたことのない悔しさだったと言う。曰く「自分に勝てなかった」。闘っている時は無我夢中、しかし終わってみると「もっとできたはずなのに」、「まだまだやり足りない」という思いばかりが出てきた。泣きながら「次の後楽園(大会)でまた挑戦します! もう予約しました!」と言って、コメント姿を見守っていたSAKIを苦笑させてもいる。
もう一つ、清水にとって悔しかったのはシングル王座戦がセミになったことだ。
「SAKIさんとメインに立ちたかった! SAKIさんはメインに出るような選手なのに、私がそうじゃないから......」