月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
日本中がモヤモヤ…中田翔の巨人トレード、長嶋さんまで担ぎ出された騒ぎを新聞各紙はどう報じたか <コネ入団? 逃げ道が閉ざされた?>
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKYODO
posted2021/08/31 06:00
8月20日に巨人に移籍した中田翔。日ハム在籍時に科された無期限出場停止処分は、わずか9日で解除された
朝日は『中田 Gへ無償トレード』(21日)として、「見殺しも特別扱いもしない」と原監督の説明に沿った内容。
毎日は中田がホームランを打った翌日に『違和感の中 G中田1号』(23日)とし、《出場停止処分が短期間で解除されたことへの懐疑的な見方や、早期復帰に違和感を覚える野球ファンも少なくない》。違和感とはつまりモヤモヤである。
では読売はどう報じたか? 気になります。読売はスポーツ面に原監督と中田の握手の写真を載せ、
『中田獲得のG 長打力評価』(8月21日)
すごい! 一番シンプル。やはり戦力として評価していました。ある意味すがすがしい見出し。
さてここまで書いてきたが、読み比べをして私はどう感じたか。最後に書いておきます。
理想の復帰ストーリーを妄想してみた
今回の原監督の言動は「なかなかうまかった」と思う。たとえば政治家と比べてみてほしい。
先日、菅首相は緊急事態宣言を来月12日まで延長すると発表した。「9月12日」という日程は科学的な意味で考えるとわからないが「菅首相の再選戦略」というフィルターを通すと透けてみえると各紙に書かれた。
9月下旬ではなく中旬(12日)にしたのは、そのほうが衆院解散を打てる可能性を多く持てるからだ。これは首相自身の都合である。でも個人の野心や思惑を公共の利益としてどう納得させるか、そこに政治家の器量があるとも言える。しかし菅首相には「お主もワルよのぉ」と思わずニヤッとしてしまう、公共の利益に変換してしまうほどの説得力を感じなかった(詳しくは「文春オンライン」の記事を読んでください)。
その点、原監督は中田獲得に関し「球界活性化」「誰でも過ちはある」「もう一度チャンスを与えるべき」と訴え、この大義は説得力があった。中田がこのまま消えていくのは惜しいし、再チャレンジ反対とは多くの野球ファンは言わないであろう。
原監督は中田獲得を「公共の利益として有権者に説得」できたのである。しかしそのあと試合にすぐ起用したことで原監督の「個人の野心や思惑」がチラチラ見えてしまった。原監督がうますぎたせいで「お主もワルよのうぉ」ではすまなくなり、最後モヤモヤしたのだ。今回の大きなポイントである。
こんな展開はどうだっただろう。中田にまずコンプライアンス講習を受けさせ、二軍からスタートさせる。新旧の背番号「10」阿部慎之助二軍監督と泥にまみれている様子を画に撮らせる。そして満を持して9月中旬くらいに一軍に上げる。緊急事態宣言が翌日に解除される「9月12日」ならなおよい。中田も一緒に解除されればマスコミも喜んだはずだ。
もちろん、緊急事態宣言も中田の解除も「もう少し延長しよう」という世論の要請もあったかもしれませんが。
以上、8月の「月刊スポーツ新聞時評」でした。