JリーグPRESSBACK NUMBER
「寝ようとしても眠れず、時計を見ると朝4時」市川大祐“18歳のオーバートレーニング症候群”と気づいた恩師の過去とは
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byJFA/AFLO
posted2021/08/27 17:00
フランスW杯では落選したもののベンチ入りするなど、高い期待を受けた市川大祐。その翌年にオーバートレーニング症候群に陥った
「ひょっとしたら自分でも気づかないうちに気が緩んでいたり、手を抜いてしまったところがあったのではと思ったんです。そう考えて、より隙をなくさないといけないと奮い立たせていました。もともとトレーニング自体が好きで、必死にやってきたからこそ、プロになり、代表に入ることができたという自負もありました。ですから、そのときは今以上にトレーニングしなければいけないという考えだったと思います」
何事においても真摯に取り組み、練習熱心な性格も関係していたかもしれない。
「イチの調子がおかしい」と気づいた指揮官の過去
そんなある日、サテライトリーグの試合中にそれまで感じたことがないほど、それまで以上に体が鉛のように重く、重く感じた。加えて、手足の指先が痺れ、身体にはまったく力が入らない。ジョギング程度でも走れないほどだったという。
「イチの調子がおかしい」
異変に誰よりも早く気付いたのは、当時トップチームの監督を務めていたスティーブ・ペリマンだった。
実は、市川曰く、ペリマンも現役選手としてプレーしていたトッテナム時代に、体が重く感じ、全く動かない期間があったのだという。当時はそれが何だったのか分からなかったそうだが、「もしかしたらオーバートレーニング症候群だったのかもしれない」という経験談をしてくれていた。
病院では、トレッドミルのテストで呼吸代謝の数値を計測した。通常は15分走る間に徐々にスピードが上昇し負荷がかかっていくが、スタートして5、6分、隣にいた医師は首を傾げ、マシンをストップさせた。その数値にどこか納得した表情を見せていた。
「これは完全にオーバートレーニング症候群だね」
体力は一般人以下、回復能力もかなり低下していた。
そんな状態で練習や試合で、繰り返し負荷をかけてしまっていたため、疲労が抜けづらくなっていた。疲労だけがどんどん蓄積され、コップに注がれた水が溢れるように、身体の異常として現れたのだ。
「このままずっとトレーニングを続けていると、精神的なところにも影響が出ると言われましたね。たとえば、うつ病の引き金になる可能性もある、と。そうなれば復帰までにとても時間がかるし、場合によっては選手生命が終わるケースも考えられると」