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忘れられない2年前の悪夢…青森山田10番・松木玖生が静岡学園との再戦で誓ったこと「あんな思いは二度としたくない」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2021/08/26 17:02
2019年度選手権決勝の再現となったインターハイ準決勝。あの時の悔しさを胸にピッチに立った青森山田・松木玖生(3年)の存在感は群を抜いていた
「プレミアリーグで首位を走っているチーム(青森山田)は、毎試合の質と強度が全然違う。マイボールになった時のプレッシングは剥がさないといけませんが、(ボールを)取られた後のうちの守備力の足りなさを痛感しました。選手たちは一度奪われたらそのままゴール前まで持っていかれてしまった現実を目の当たりにして、もう一度すぐに奪い返してマイボールにするかしないかで大きな差が生まれることを、リアルに体感することができた。これからは“基準”を青森山田さんに設定して日頃のトレーニングからやっていかないといけない。その基準を全員で持つことができたことが、我々にとって大きな収穫だと思います」
静岡学園にとっては、全国トップレベルの現状を突きつけられた格好だ。明確な差が見えたことで、選手たちにとっては反骨心が芽生える良いきっかけになるだろう。そんな川口監督の思いは選手たちにも伝わっている。
「もっとやれると思っていたけど僕らの力不足でした。普段は出ないようなミスが出た。もう一度僕らのサッカーを見つめ直してやらないといけない」(CB伊東進之介)
「日頃の練習から意識と強度を変えないとこの差は埋まらない。選手権で再戦するために全力を尽くしたい」(FW持山匡佑)
明らかに変化した選手の目を見た川口監督は、潔く本心を口にする。
「最後にこうして青森山田と戦えて良かった。2年前のチームも夏を境にぐっと伸びてきたからこそ、我々は今から選手権に向けて準備をします」
松木にとって初の全国優勝
静岡学園からリベンジ宣言と大きなエールをもらった青森山田は、米子北との決勝戦では大苦戦を強いられたものの、後半終了間際に同点に追いつき、延長後半ラストプレーで決勝ゴールを奪う劇的な逆転優勝で大会を制した。
実はこの延長戦、松木の足はずっとつっていた。何度も屈伸しながら最後まで懸命にプレーを続け、タイムアップの瞬間はその場にうずくまって大号泣。意外だが、これが彼自身初となる全国制覇だった。しかし、その喜びの涙だけではなく、準決勝を最高のモチベーションで戦い抜いたという達成感と疲労が、彼の体を支配していたのかもしれない。
因縁の相手がいるからこそ、選手たちは思いを強くし、成長を遂げていく。松木が2年前に静岡学園から教わったように、静岡学園の選手たちもこの試合から学び、飛躍を遂げるべくリスタートを切っている。無観客のスタジアムから放たれた熱戦は、それぞれの心に宿り、新たな物語を紡いでいくのだろう。
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