Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「新宿」でなぜサッカーを? 異例の百年構想クラブ認定、元Jリーガー続々加入も「チームは今、過渡期にあるんです」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byCriacao Shinjuku
posted2021/08/26 11:01
クリアソン新宿の2021キービジュアル。ゴールデン街の協力のもと、ユニフォーム姿で写真におさまった
「サッカーは手段でしかないというのが、クリアソンの代表である丸山(和大)の考えで、その考えに共感する者がうちには集まっています。つまり僕たちは、サッカーをするために集まっているのではなく、サッカーを使って何ができるかを考えている。社会、新宿区、仲間に対して何ができるか。それを成すために、サッカーをむちゃくちゃ頑張っている集団なのかなって」
2020年11月には、新宿区との包括連携協定が結ばれた。
項目は「スポーツ振興」「学校と地域との連携」「多文化共生」「健康寿命延伸・健康づくり」「観光・産業振興や地域商店街の活性化」と多岐にわたる。
クリアソンは自らの存在意義を実現する場所として新宿を選び、新宿区もサッカーで街を盛り上げ、問題解決に取り組もうとするクリアソンの試みを歓迎しているのだ。
クラブは新宿の街中に少しずつ定着しようとしている。
ファッションビルであるマルイのフロアの一角に企画展示が設けられ、新宿駅東口の顔でもあるスタジオアルタ(かつて『笑っていいとも!』の収録が行われていたスタジオ)の大型ビジョンではPR動画が流れている。新大久保のメイン通りには、クリアソン新宿の紫のフラッグが100本近くの街灯に巻き付けられている。
学生や家族連れだけでなく、日本人も外国人も、サラリーマンも飲食店の店員もキャバクラ嬢も、新宿に住むあらゆる人たちが、性別、国籍、職種の枠を超え、スタジアムを埋める――。
それが、井筒やクリアソン新宿の面々が思い描く夢のひとつだ。
「価値観で選手を集める」チームづくり
「地域活動の担当者がすごく頑張ってくれて、露出は少しずつ増えています。僕自身、お酒を飲むのが好きなので、ゴールデン街には営業を兼ねつつ客として通っていたんですけど、今はコロナ禍でなかなか攻められていません。
特に今、関東サッカーリーグは無観客なので、試合を見に来てもらえないのが残念ですね。『クリアソンの試合を新大久保で見よう!』といったスポーツバー企画ができないのも、超痛手です」
Jクラブはサッカーのレベルで選手を揃えるが、クリアソン新宿は「なんのためにサッカーをするのか」という思いや価値観で選手を揃えている。
5年後、10年後にどうなっていたいのか。
サッカーを使って自分に何ができるのか。
地域や世界のためにどんなことができるのか。
そうした考えに共鳴した元Jリーガーが、井筒の加入後、続々とクリアソン新宿のユニホームをまとっている。
元横浜F・マリノスのDF小林祐三、元浦和レッズのGK岩舘直、元ジェフユナイテッド千葉のMF伊藤大介、元FC東京のMF森村昂太、元大分トリニータのMF黄誠秀(ファン・ソンス)、元栃木SCのDF瀬川和樹、元カマタマーレ讃岐のMF池谷友喜……。
プロの世界を知る選手たちの加入で、チーム力は著しくアップした。
だが、戦力の増加が足し算にならないところが、サッカーの難しいところだ。