Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「新宿」でなぜサッカーを? 異例の百年構想クラブ認定、元Jリーガー続々加入も「チームは今、過渡期にあるんです」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byCriacao Shinjuku
posted2021/08/26 11:01
クリアソン新宿の2021キービジュアル。ゴールデン街の協力のもと、ユニフォーム姿で写真におさまった
21年4月29日に行われた関東サッカーリーグ1部の前期4節で、クリアソン新宿は都並敏史率いる強敵・ブリオベッカ浦安に0-3の完敗を喫した。
「チームは今、過渡期にあるんです。これまでは完全に社会人のチームでしたけど、元Jリーガーが増えてきてハレーションが起きている。クリアソンって既存のサッカークラブよりもサッカーサッカーしてない人の集まりだったので、その反動がすごく大きいというか」
攻撃が噛み合わない、プレーのイメージがズレる、サポートが少ない、ボールが前に進まない……。試合中にそうした問題が生じたとき、決まって議論になることがある。
戦術のせいなのか、精神性のせいなのか――。
「僕はどちらかと言うと、戦術も大事だけど、まずやらないと勝てないよねっていうタイプ。プロ経験のない選手たちもそう。一方、元Jリーガーは、仕組みがおかしい、戦術が悪い、みたいな感じになる。どっちも間違っていなくて、考え方のズレというか」
井筒も元Jリーガーだが、四の五の言う前にやる、という点に重きを置いている点が興味深い。
「大学時代、チームメイトに呉屋大翔や小林成豪(いずれも現大分トリニータ)がいましたけど、彼らもあまり戦術は語らず、とにかくやるタイプ。僕もチームをそうやってマネジメントした結果、日本一になれたという成功体験がある。でも、大介くんや祐三さんは、Jリーグで何百試合も出ていて、いろんな監督のもとで戦ってきたわけだから、サッカーを語るレベルが違うんです。そこのすり合わせを今、必死にやっています」
試合直前にワークショップを開催?
揺れるチームにまとまるきっかけを与えたのは、監督の成山一郎だった。
井筒にとっては関西学院大時代の指揮官でもあり、付き合いは長いのだが、成山はまったく予想外の行動に出た。
「(前期5節の)桐蔭横浜大学FC戦の試合前に、突然ワークショップを始めたんです」
普段は試合の1時間半くらい前に集合し、ポジションごとに分かれて戦術の確認をしたあと、セットプレーの確認に入るのだが、その日は違った。
「成山監督が『それぞれ考えがあると思うけど、どうありたいのか、うまくいかないときにどう振る舞いたいのか、グループに分かれて話し合ってください』って。それが終わると、そのあり方、振る舞い方はどうすれば実現するのか、3つくらい順にお題を出されて話し合い。そのあと『今日も暑いし、うまくいかないこともあるかもしれないけれど、自分が今言ったことを体現しましょう。はい、最後にセットプレーの確認』って。時間がカツカツになっちゃって(笑)」
考えてみれば、それぞれがクリアソン新宿の一員になりたくて、仕事を持ちながらプレーを続ける選手や、Jリーガーを卒業して加入した選手ばかり――。
つまり、根底の部分は同じなのだ。
「別に誰かが反旗を翻したりとか、0、100で100戦術でしょ、っていう人もいないので。それぞれが抱えているモヤモヤと、クリアソンが大事にしているものを、すり合わせるきっかけになりましたね」