令和の野球探訪BACK NUMBER
高2夏に5連投、近鉄では174球完投…ユウキが“高校野球を変えたい”と現場で訴えるワケ「僕は身体ができる前に壊れてしまった」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/08/27 11:02
「ユウキ」の登録名で近鉄やヤクルトで活躍した田中祐貴さん。現在は帝京大可児高の投手コーチを務めている
一方で、ヤクルトで過ごした現役最後の2年間は現在の指導にも大きく生かされているとも語る。
「ファンの皆さんとの距離が近かったですし、選手間の結束やフロントやスタッフの方々の支えなど、いろんなものに感謝してプレーできました。自分自身の溜まっていたものが浄化されていくのが分かりましたね(笑)」
移籍1年目の09年に挙げた5勝目(プロ通算28勝目)が最後の勝利となったが「野球やらせてもらえて、一軍のマウンドにも上げさせてもらえて、幸せな気持ちだったのは今も覚えています」と野球をする喜びを感じることができた。そんな経験があるからこそ、選手たちに伝えたいのが「たくさん練習できる身体で次のステージに進んで欲しい」という思いだ。
「(身体の)強さもあって怪我もしていないという状態ですね。僕はその身体ができる前に壊れてしまった。走りたくても走れなかったし、投げたくても投げられなかったんです。それが僕の成長を止めました。だから上の世界に行って、質の高い練習がたくさんできることが一番伸びる秘訣だと思います」
そのために、まず高校生たちに根付かせたいのは、怪我を正直に申告できる雰囲気作りだ。田中さんは日頃から選手たちに“怪我があったらすぐ言いに来るように”と伝えている。それでも、小中学校時代から無理をしてでもプレーを投げてきた投手たちの意識を変えるのは難しいという。「怪我の辛さって本人にしか分からないんですよ」と田中さんは熱を込める。
大切なのは「考動力」
「僕はずっと怪我に苦しんできましたし、プロの世界では“痛くもないのに休んでいる”と二軍の首脳陣に言われたこともあります。そんなわけないじゃないですか。投げれば給料だって上がるって分かっているのに。わざと投げない理由がどこにあんねんって当時は思いましたし、結局自分の痛みは自分にしか分からないんです。ただ、その大丈夫かどうかの境目は、高校生だと分からないので、それを分かってあげられる指導者でなくてはいけないと思っています」
田中さんは選手たちに自ら考えて動く重要性を伝えるため、「考動力」という言葉を用いている。
「試合でも捕手にうんうんって頷いているだけじゃ駄目だし、練習もただ言われたことをやらされているだけでは駄目ですね。質問が無い子は伸びません。やらされてない子は質問が増えます」
前述した怪我の自己申告も「考動力」の1つ。だが、闇雲にただ考えさせて自主性だけを謳うつもりもない。
「最初から“考えてやれ”では高校生はできるようになりません。ある程度のことはひと通り教えてから、考える時間を与えると、すごく伸びるんだなということは、指導しながら分かってきました」