令和の野球探訪BACK NUMBER
高2夏に5連投、近鉄では174球完投…ユウキが“高校野球を変えたい”と現場で訴えるワケ「僕は身体ができる前に壊れてしまった」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/08/27 11:02
「ユウキ」の登録名で近鉄やヤクルトで活躍した田中祐貴さん。現在は帝京大可児高の投手コーチを務めている
高校野球のルールに関してもさまざまな思いを巡らせる。特にピッチャーの「二段モーション(一度上げた足を上下したり、止めたりする投球フォーム)の禁止」は納得できないという。自身も、二段モーションで活躍した岩隈久志を育てた久保康生コーチに勧められて取り入れていた。
「投手のタイミングが取りやすく、腕が上がってきやすいんで肩に負担が少なく故障防止に繋がると思います。リズムが取りやすく、足をトントンと上げて落ちていく反動が使えますし、軸足でしっかり立つという感覚から(踏み出して)割るという感覚がすごく掴みやすくなります」
実際、投げるタイミングが掴めていない投手に対して二段モーションの指導を行ったことで改善した例もある。しかし、対外試合ではすぐに球審から「イリーガル!(反則投球)」と言われてしまう。実戦の中ではできず、感覚を残しつつフォームを戻さなくてはいけない。
「相手が立った実戦の中で、二段モーションのフォームで投げさせてあげたいんですよね。プロで良くて、大学・社会人も良くて、なんで高校野球じゃ駄目なんですか?」と首を捻る。ただ、こうした発想が生まれるのもプロでの13年間の経験があるからこそだろう。
「僕は高校野球を変えたい」
「10年間肩を痛めてリハビリしながらのプロ生活でしたから故障の苦しみも分かりますし、大活躍はできなかったけど一軍でも投げられて、プロで活躍する打者も知ることができました。いろんなテクニックで勝負することを教えられるのはプロの経験があったからだと思いますね。
僕は高校野球を変えたいと思っています。1人ではできないですけど、選手の味方でいたいですよね。パーソナル(個々)で選手を見られる指導者が増えないと上のステージでやれる子も減ってしまうのではないかと思います」
プロ野球の世界で培ったものと高校野球の現場で実際に感じたことを融合させながら、田中さんはより良い野球界にすべく、一人ひとりと向き合いながら指導を続けている。