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大谷翔平や坂本勇人らの影響が高校野球にも?「2番打者」に監督がバントのサインを出さなかった“2つの理由”〈青森・弘前学院聖愛〉
text by
間淳Jun Aida
photograph byGetty Images/Kyodo News/JMPA
posted2021/08/21 20:00
高松商・浅野翔吾のような2番打者が増えているのも、大谷翔平や坂本勇人の影響が大きいのかもしれない
すでにメジャーでは珍しくなく、ヤンキースが本塁打王の獲得経験があるアレックス・ロドリゲスやアーロン・ジャッジを2番で置いたのは知られている。日本のプロ野球でも近年ではヤクルト・山田哲人、そして東京五輪金メダルの侍ジャパンでも2番を打った巨人・坂本勇人らなど、長打でチャンスを広げたり、打点を稼いだりする打者が増えている。
1点差で敗れはしたが、2番にチームNo.1の打者を置く弘前学院聖愛の戦い方は近い将来、高校野球の主流になる可能性もある。
サインを出さなかったもう1つの理由とは
そして、冒頭に挙げた同点の6回無死一塁の場面で、原田監督がバントのサインを出さなかったもう1つの理由があった。
「野球は無数の状況判断が必要なスポーツ。できる限り生徒に考えさせて、野球を通じた人間育成をしていきたいと思っています」
原田監督は選手にサインを出さない。石見智翠館戦でも「待て」のジェスチャーをしただけ。唯一、攻撃の指示を出したのは、2点を追う9回無死一、二塁でのバント。選手が打席に入る前に口頭で伝えた。
講演会で「野球型の人間は社会で通用しない」と
「金槌で叩かれたような衝撃を受けました」
ノーサインに方針転換したきっかけは、5年前だった。
経営者が集まる講演会に参加すると、「野球型の人間は社会で通用しない」という話が展開された。監督のサインを1球1球確認するのは、上司に1回1回判断を仰ぐのと同じ。指示に従うのではなく、考えて仕事をしないと社会で生きていけない。今までの指導が否定されるような話に、原田監督は大きな決断をする。それが、ノーサイン野球だった。
もちろん、すぐにうまくはいかない。口を出すのは簡単だ。しかし、戸惑う選手たちに考える時間を与えて、判断する力を少しずつ育んでいった。
「監督が指示すると、生徒の状況判断能力に壁を作ってしまう」
野球を通して、社会に出ても苦労しない人間に育てる。信じた道を貫いた。