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「ドラフト候補の前川右京らをどう抑える?」“大阪桐蔭を2度破った”優勝候補・智弁学園に仕掛けた奇策《夏の甲子園》
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/08/11 17:02
夏の甲子園、2日目智弁学園vs.倉敷商(10-3)。写真は5回表智弁学園、三垣の2点タイムリー二塁打
先頭の前川に二塁強襲安打で出塁を許すと、4番の山下にはレフトフェンス直撃の豪快な当たり。これを左翼手がもたついている間に、前川が一塁からホームイン。送球間に山下に三塁への進塁まで許した。
ここで、倉敷商はエースの永野にスイッチした。梶山監督はこの交代をこう振り返っている。
「三宅はよく投げてくれたと思います。100点でした。ただ、うちのエースは永野ですから、あの試合展開を考えたときに、2、3点差がついてから登板するのは厳しい。ここは永野に任せようと思って送り出しました」
その永野は5番の植垣洸を空振り三振に切ってとったものの、次打者の三垣飛馬に死球を与えてしまう。さらに7番・森田空に1ボールとなったところで梶山監督は伝令を送って間をとったが、これが裏目に出る。伝令明けの初球にセーフティースクイズ(内野安打)を決められてしまったのだ。2つの隙をつかれた失点は試合の流れを失うものだった。
2点ビハインドとなったエース・永野は智弁打線の流れを変えようと腕を振ったが、勢いをとめられなかった。5回には先頭の西村王雅に右翼前安打を許すと、続く1番の岡島光星に左翼二塁打。連続四死球で1失点。1死後、植垣と三垣の連続適時打。さらに森田にはスクイズを決められ一挙5失点。試合の大勢を決められてしまった。
この後、7回にも3失点した倉敷商は、9回裏に3点を奪って反撃するも、得点差は大きくこのまま3−10で敗れた。
エース永野を先発させていれば違ったのか?
倉敷商の思い切った策は失敗に終わった。エースの永野を先発させれば違う展開になっていたという意見もあるだろう。智弁学園は左打者が6人いる打線だけに、最初からサウスポーを先発させるのが常套手段とも言える。
しかし、梶山監督は9イニング全体で考えたときに、永野一人では抑え切れないという判断をした。優勝候補・智弁学園打線の力強さを考えれば、納得いく策だ。
「三宅はいいピッチングをしてくれましたし、あのときはエースしかないと思っていました。智弁学園の打線は少し浮いただけででもしっかり捉えてくる打線でした。それより序盤にチャンスを掴めた場面もあったので、あそこでうまく攻められていれば、違う展開にもなったのかな」
梶山監督が悔いているのは2回裏の攻撃だ。先頭の藤森旭心が右翼前安打で出塁したものの、5番・弓取将大の送りバントは、投手前に転がって二塁封殺。さらに盗塁を試みたが、これも失敗。チャンスは潰えてしまった。
もっとも、これらの悔いが残るのは先発投手を三宅にするというチャレンジをしていたからこそだ。
「改めて全国で勝ち上がる難しさを感じました。私自身はこの負けをきっかけにしなきゃいけない。そういう試合になりました」
梶山監督は試合を総括した。監督に就任してまだ2年。こうしたチャレンジから学んだものをどう次世代に伝えられるか。これは指揮官にしかできないことでもある。