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<甲子園に出られなくても>
東海大相模・菅野智之「遠回りは、意外と近道」

posted2019/08/05 10:00

 
<甲子園に出られなくても>東海大相模・菅野智之「遠回りは、意外と近道」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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Kiichi Matsumoto

果てなき努力は報われず、夢は叶わなかった。しかし、球界屈指の右腕が高校3年間を振り返った時、あのレジェンドが残した言葉に共感を抱いていた。(Number983号掲載)

「走れ! 走れ!」と叫ぶ声を背中で聞いた。振り向くと三塁ベンチで監督の門馬敬治が一塁を指差し、塁上の2人の走者にも「回れ、回れ!」と手を振っていた。2007年夏。神奈川大会準決勝の東海大相模対横浜戦で起こった高校野球史上に残る「振り逃げ3ラン」の瞬間だ。打席にいた東海大相模・菅野智之は振り返る。

「あそこのフィールドで(ルールを)知っていたのはたぶん、うちの門馬監督だけだったと思います。『走れ!』って言われて僕も訳がわからなかったし、相手の横浜のキャッチャーを責めるのも違うと思う」

 3点を先制してなお4回2死一、三塁。カウント2-2からワンバウンドのスライダーに菅野のバットが動いた。球審が一塁塁審に確認して、右手を上げて「スイング」を宣告。コールに横浜ナインが一斉に一塁ベンチへと引き揚げ始めたときに、菅野は門馬の声を聞いたのだ。

「普通ならバッターはベンチに帰っちゃうんですけど、運よく僕がバッターボックスを出るか、出ないかの微妙なところで聞こえてきたんです」

 スイングしたボールを捕手がワンバウンドで捕球した場合は、打者にタッチするか一塁に送球しないとアウトは完成しない。いわゆる振り逃げのルールだ。訳も分からず半信半疑でベースを回る菅野も、何度も「これでいいのか」という風にベンチに確認しながら、ホームまで還って3点を追加した。結局、この試合を6対4で勝った東海大相模が決勝への名乗りをあげることになった。

「門馬監督が以前に同じことをやられて負けたことがあり、ルールを覚えていたと聞きました」

 菅野は振り返る。

「門馬監督の緻密さというか、スキあらばというところだったと思います。特に走塁やトリックプレーにうるさく、相手の盲点を突く、スキのない監督さんでした。そういうのが相模の野球といえば、そうなるのかもしれませんね」

この記事は雑誌『Number』の掲載記事です。
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菅野智之
門馬敬治
原貢
東海大相模高校
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