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アスリートの“メンタルヘルス問題” オリンピアンはどう戦ってきた?「すべてを犠牲にする価値があるのか自問自答している」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2021/08/09 17:00
体操選手のシモーネ・バイルズ。メンタルヘルス上の理由から団体と個人総合種目を棄権した
「リオ五輪の前に大怪我をした後、東京で金メダルをとるためには生活を変えないといけないと思った。これまでの生活、食事、すべてを変え、全身全霊で取り組むべきだと感じた。目標を達成するためには、家族の優先順位は下がったし、ガールフレンドにもその犠牲を強いることになった」
東京に出発前日に祖父を亡くした選手も
200m3位のノア・ライルズ(米国)はレース後に取材陣の前で、号泣した。
「延期になってからの1年はとてもつらかった。それに頑張っても結果に結びつかないこともある。でもそれよりもつらいのは、弟と一緒にオリンピックに来られなかったことだ。弟は自分よりも陸上が大好きで、この舞台にふさわしい」と泣き出した。
男子砲丸投げで、オリンピック記録を塗り替えて連覇を果たしたライアン・クルーザー(米国)も取材陣の前で涙を浮かべた。東京に出発する前日に祖父を亡くしたという。
「祖父は自分に砲丸投げを紹介してくれた。コロナの影響で、ドーハ世界陸上の後に会ってから、全米オリンピック選考会の後に『世界新を出したよ』と報告に言ったんだけど、それが最後になった」
東京で選手村に入ってからも悲しみが消えず、またコロナに感染したチームメイトが出たことで、精神面が不安定だった、とクルーザーは話す。
選手からのメッセージ「どんな自分も自分だから」
1年の延期、厳しいコロナ対策、無観客、自ら、そして周囲からのプレッシャー。選手たちは多くのことと戦ってきた。そして自分らしくあること、弱い自分を見せることを恐れないこと、そんなメッセージを送る。
スポーツ選手は強くあるべき、弱音を吐かず、涙を見せず、いつも元気でいてほしい。世間はそんなイメージを勝手に押しつけることがある。しかし「どんな自分も自分だから」という選手たちのメッセージに耳を傾ける必要があると思う。