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張本智和「引退させません」伊藤美誠「水谷選手とだから勝てた」 後輩に“憧れられる”水谷隼は卓球界の何を変えたのか
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2021/08/07 17:06
卓球男子団体で銅メダルを勝ちとった日本代表。水谷隼が卓球界にもたらした影響は大きい
ラケットの不正ラバー使用を告発した2012年
道を作る存在だった。卓球にかける熱情あればこそだった。
だから、卓球のために、と率直に発言もしてきた。象徴的だったのは、2012年だ。
ロンドン五輪の後、ひととき国際大会を欠場した。それは卓球界にあった、ラケットの不正ラバー使用を告発するためだった。ラケットのラバーに接着剤を使用し、打球の反発力を高める行為が、2008年に禁止されたにもかかわらず行なわれていることへの問題提起だった。
不正に手を染めながら世界で活躍する中国などの選手たちの存在を訴えたのは、アンフェアであることへの怒りとともに卓球の未来を憂えたからだった。「負けた言い訳だ」という声もぶつけられたが、折れることはなかった。今なお、思ったことを率直に語る姿勢は変わらない。
リスクを承知での訴えに、状況が変わることはなかったという。それでも水谷は試合の場に戻り、正面から勝とうとエネルギーを注いだ。
「まだまだ若手の壁でいたい」と語った2019年
卓球への熱は、人にも向けられた。水谷は、2019年1月の全日本選手権で、「まだまだ若手の壁でいたい」と語り、同年Tリーグ開幕への抱負としても、「若手の壁になれるように」と語っている。自身が苦労して開いてきた競技人生からすると、若手選手に甘さを感じることもあったろう。水谷なりの叱咤激励であった。
同時に、よく後輩の面倒をみるのも水谷だった。今年の全日本選手権で優勝した及川瑞基は憧れの選手に「MJ」をあげている。水谷のことである。