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《フェンシング初の金メダル》男子エペ団体「みんなで支え合えるのが一番の強み」だから見延和靖はユニフォームを脱がなかった 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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posted2021/07/31 11:07

《フェンシング初の金メダル》男子エペ団体「みんなで支え合えるのが一番の強み」だから見延和靖はユニフォームを脱がなかった<Number Web> photograph by Getty Images

フェンシング界初の金メダルを獲得した男子エペ団体チーム(左から加納、見延、宇山、山田)

 17年に団体メンバー入りしてから間もなく、プレッシャーのかかるアンカーに抜擢された。リストが強く、相手の剣を弾いて点を取る力を評価されたことに加え、大きな武器がもう1つある。

「サーシャ(ゴルバチュクコーチ)はメンタル面を褒めてくれるので、メンタル面で勝ちきれるのがアンカーを任される理由だと思っています。オリンピックでも、突拍子もないことをやってしまうかもしれません」

 自らの予言的中、とばかりに加納が得点を重ねる。すぐさま同点とした後、立て続けにポイントを重ね、このセットだけで16得点を叩き出し、一時は8点差も離された初戦で奇跡の大逆転勝ちを収めた。

 続く準々決勝ではアテネ、北京、リオと五輪を3度も制している最強王者フランスに序盤はリードされ追う展開が続いたが、ここでもまた主役は加納だった。

 36対38、2点差で迎えた最終セット。世界ランク6位のヤニック・ボネルと対戦した加納は、ジワジワ追い上げ点差を縮め44対44の同点とすると、最後はボレルのアタックを交わして振りこみを決め、1本勝負の末に劇的な勝利を収めた。

 まさに絶体絶命の状況から、鮮やかな大逆転に次ぐ大逆転。

 大会直前、見延は言った。

「このチームは誰がエースを張ってもおかしくないチームで、もし1人、誰かがダメだったとしてもみんなで支え合えるのが一番の強み」

 その言葉の通り、現在日本の中で個人ランキングトップの山田を含め、全員が取るべきところで取り、守るべきところで守る。準決勝の韓国戦、そして決勝のROC戦、4試合すべてが、会心の勝利だった。

ユニフォームを脱がなかった見延

 だが、最後の最後。あれほど夢見た決勝のピスト(コート)に、唯一立つことができなかったのが見延だ。

 通常ならば1つの試合で選手交代が行われても、また次の試合になれば4名の中から3名を新たに選び直すことができる。しかしこの東京五輪では特別ルールが設けられ、一度交代した選手はその後チームが勝ち上がろうと出場することができない。つまり、アメリカ戦で途中交代した時点で、その夢が途絶えていたのだ。

 それでも見延は、自分にできることを実践するとばかりに、ユニフォームを脱ぐことなく、誰よりも大きな声を張り上げた。点を取れば両手を高く突き上げ、後輩たちを盛り立てた。

 まさに“チーム”のために戦うキャプテンと、全員で支え合った末につかんだ悲願の金メダル――。

 最後まで攻め続け、ビクトリーポイントをもぎ取った加納が言った。

「まだ、信じられなくて。これが夢ではないことを祈ってます」

 ずっと遠くにあった大きな夢は、紛れもなく現実になった。

 不可能を可能に変えた4人のフェンサーの胸に、待ち望んだ金メダルが輝いていた。

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