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《フェンシング初の金メダル》男子エペ団体「みんなで支え合えるのが一番の強み」だから見延和靖はユニフォームを脱がなかった
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byGetty Images
posted2021/07/31 11:07
フェンシング界初の金メダルを獲得した男子エペ団体チーム(左から加納、見延、宇山、山田)
そうなれば、常に見延が口にしてきた「個人と団体の両方で金メダル」の夢も、一気に現実味が増してくる。
「(エペは)勝つのは難しい種目だと言われ続けてきましたが、それも僕たちが『勝てる』と証明することができた。前回のリオはチャレンジャー精神で、いかにオリンピックを楽しもうかと挑んだ大会でしたが、今回は2回目。しかも世界ランク1位を経験してからのオリンピックなので、本気で頂点を目指しに行くオリンピックだと思っています。その源には、リオの時に団体で出られなかった悔しさがある。今回は史上最強のチームになったと思うので、東京で金メダル、表彰台の一番高いところに立つ。その目標を達成できるように、チーム一丸となって戦っていきたいです」
初戦アメリカ戦で大苦戦
並々ならぬ思いと共に、迎えた東京五輪。史上最多人数のチームで臨んだフェンシング日本代表だったが、個人戦ではエペに限らず、全選手が僅差の末に敗れ、目標としたメダル獲得を達成できない状況が続いていた。
27日からは団体戦が始まり、男子エペと共にメダル獲得が大いに期待された女子フルーレ団体はアメリカに準々決勝で敗れた。「何とかメダルを」と期待が集まる中で始まった男子エペ団体だったが、初戦のアメリカ戦から大苦戦を強いられた。
1チーム4人中、3人の選手がそれぞれ対戦相手を変えて3巡する団体戦で、日本は加納、山田、見延でスタートしたが、それぞれ2巡目を終えたところで16対23。いきなり崖っぷちに追い込まれた。
残り3セットで逆転できるのか。そんな追い込まれた状況で、一気に流れを引き寄せたのは8セット目から見延に代わり出場した宇山だった。長身を生かし、相手と絶妙な間合いを取って攻め、22対28から一挙7点を取り返す活躍を見せた。
「調子が悪い選手やメンタルが落ち着いていない選手、弱みを見せた選手を徹底的に追い詰めることでチームの流れを持ってくる。それが自分のポジションなので、いかに(日本チームの)他の選手が楽に、気持ちよくできるか。時間いっぱい使って、点数を守り、なおかつ押し上げることが自分の仕事だと思っています」
言葉通り自らの役割を実践した宇山は29対31と追い上げ、点差は2点で残り1セットにつなげた。そして、ヒリヒリするような場面で大仕事をやってのけたのは、アンカーの加納だった。