酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「台湾の次に日本野球が好き」「東京五輪はメダルを狙えた!」 呉念庭・宋家豪らがいるのに…ファンが嘆いた台湾「出場辞退」の“その先”とは
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byPenta Press/AFLO
posted2021/08/05 06:01
プレミア12では躍進した台湾代表。NPBにもなくてはならない人材供給源だ
徹底的な感染症対策を行なった“優等生”
そして最後の1つの出場権をかけて翌年4月の世界最終予選に回ることとなったが、この予選は台湾(台中)で行われる。ホームのアドバンテージを考えれば、五輪出場の可能性は大きいと選手、関係者もファンも期待していた。
しかし2020年、世界は新型コロナのパンデミックに覆われ、台湾でも感染が拡大したので世界最終予選は延期となった。
台湾は世界で最も早く海外からの渡航者を制限するなど、徹底的な感染症対策を行った。感染拡大に伴いCPBLのペナントレースも4月には無観客でスタートした。しかし新規陽性者の減少とともに徐々に観戦者数を増やし、オールスター戦は中止になったものの、予定通り各120試合のペナントレース、ポストシーズンも実施した。
台湾は、感染症対策の優等生として世界的に評価された。
例年であれば12月には日本、韓国などから若手選抜チームを招いて「アジアウィンターリーグ」が行われるはずだったが、さすがにこれは中止となった。
年が明けて2021年になってもパンデミックは衰える様相を見せなかった。台湾で行う予定の野球競技世界最終予選は、東京五輪開幕直前の6月にまでずれ込んだ。
台湾は、この4月まで1日の陽性者数は1ケタだったが、5月に入ると急増し22日には過去最多の723人を記録した。感染症対策では優等生でも、変異株対策やワクチン獲得で立ち遅れた台湾政府は接待を伴う飲食店やマッサージ店、学校の閉鎖など厳格な警戒措置を取った。
CPBLのペナントレースは3月13日に有観客で始まったが、5月16日を最後に中断した。
世界最終予選の開催も返上し、安全を考慮した
またこれにともなって、6月中旬に台中で開催される予定だった世界最終予選の開催も返上した。この状況で世界各地から多くの選手、関係者を入国させることは考えられなかったのだ。そこで世界最終予選は6月22日からメキシコのプエブラに会場を移して開催されることとなった。
それでも台湾はメキシコに代表を送る予定だったが、6月2日、予選出場を断念した。代表チームを送るためには、事前にキャンプをする必要がある。しかし感染再拡大の中で、キャンプ地を確保できなかったのだ。またメキシコでも感染が広がっていたので、代表チームを送ること自体に懸念の声が広がっていた。
そこでまずCPBLが選手、スタッフの健康面への懸念を理由にプロ選手の派遣を取りやめた。プロアマ含めた野球統括団体である中華民国棒球協会は、なおもアマチュア選手を主体としたチーム編成に向けて準備を進めた。
監督も決定し、出場選手も内定していたが、メキシコの大会運営側の感染対策が台湾の要求する水準を満たさなかった。そのため交渉を重ねたが、差を埋めることができなかった。選手やスタッフの安全を考慮し、最終的に苦渋の決断をせざるを得なくなったのだ。