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《まさかの敗退》世界1位・桃田賢斗26歳に何が起きた? 私たちは「償いの金メダル」の美談を求めすぎていなかったか
text by
鈴木快美Yoshimi Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2021/07/29 20:00
東京五輪、バドミントン男子シングルス1次リーグで敗れた桃田賢斗
そして処分が解除され、表舞台に復帰したのは17年5月の日本ランキングサーキット。このとき、賭博問題で、桃田より重い協会登録抹消処分を受けた田児賢一の言葉が印象的だ。映像を見ていたという。
「強くなったけど、よさが少なくなりましたね」
桃田の本来の持ち味は、しなやかな打球。野球でいえばチェンジアップで打ち取るタイプで、緩球に圧倒的な才がある。高校生の頃は、対戦相手の裏をかいては、「どうだ!」という楽しげな表情を浮かべてよく笑っていた。
田児が言いたかったのは、桃田からしなやかさが失われたということだ。
「感謝の気持ちを忘れず」の痛々しさ
いうまでもなく、処分以降、桃田は深く反省し、フィジカルトレーニングを増やし、力強い直線的なプレーを身につけた。そしてこの5年間、記者会見のたびに「感謝の気持ちを忘れず、バドミントンをします」という言葉を何度も繰り返していた。
この言葉には痛々しいものがあった。もちろん、本心なのだが、模範的な善人という型に押し固められていく雰囲気もあり、言葉を重ねるほどしなやかなプレーがいっそう失われていくように見えた。それでも世界一に到達する桃田はやはり非凡だが、東京オリンピックでの完敗は、心身のしなやかさの欠如によるものだった気もする。
東京オリンピックでは、新競技のスケートボードやサーフィンのメダリストたちが、これまでの常識にとらわれない自由な風を心に吹かせながらも、生真面目な競技への取り組みで偉業を達成する姿を見せてくれた。
もし桃田も、彼ら・彼女らのようにプレーできていたら、難敵との勝負所でスーパープレーを見せてくれたはずだとの思いはぬぐえない。とくに我々マスコミは、どこか桃田に過剰な清廉さを促し、過去の過ちを償っての金メダルという美談を求めすぎていなかったか。
王者たちも「初めての五輪で敗れた」
試合後、桃田は「苦しかったけど、やりきった」という言葉も残した。5年間の長きにわたり、自らを律し、注目を浴びる中で限界に挑戦し続けることは並大抵の苦労ではなかっただろう。