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“アテネ金”冨田洋之が語る橋本大輝19歳「中学時代は全国レベルではなかった」「私もこの半年間の成長に驚かされた」《体操個人総合・金》
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2021/07/29 17:30
体操男子個人総合、橋本大輝(順大)が最終6種目目の鉄棒で3位から逆転し、金メダルに
まず、予選を1位通過したことで、第1班に入り、正ローテーションで回ることが可能になった。
雄大さが持ち味である最初のゆか運動では、予選からラインオーバーの減点があったが(これは減点を恐れぬ橋本の攻めの姿勢の表れ)、この日はピタリと着地を決め、首位でスタート。
正ローテーションに従ってゆか運動で全身を使ったあとに、落下の危険をともなうあん馬も見事にクリア。この時点で優勝の可能性は膨らんだ。
鬼門は3種目目のつり輪だった。
今大会、団体戦に登場した日本の4選手は全員がオールラウンダーだが、全員がつり輪を不得手としていた。橋本のスコアは13・533。他の5種目と比べてスコアが伸びなかったのは、スペシャリスト化が進んだつり輪の現実を浮かび上がらせた。橋本にとっては、技の認定がされず、思ったほど点が伸びないのは誤算だった。
冨田が見た「橋本の長所と短所」
この不測の事態が影響したのか、4種目目の跳馬でも着地が乱れ、橋本は4位へと後退する。
動揺がうかがえた。
このとき私は、冨田氏が橋本の長所と短所がメンタルに起因すると話していたのを思い出した。
「明るく、感情を表に出すというスタイルは彼の魅力ですが、マイナス面も含んでいます。まだ若く、感情の波にのまれてしまうことがあり、自分のミスを引きずったり、まだまだナイーブな面もあります。今後はどんな演技を披露したとしても自己完結できる精神力を身につけていけば、波の少ない頼られるエースになってくるでしょう」
跳馬が終わった時点で、橋本は乗り越えなければならない課題と向き合うことになった。4位とはいえ、金メダルは手の届く位置にあるが、落ち着きを取り戻さなければならない。
そして5種目目は平行棒だったが、橋本だけでなく、第1班の選手たちの演技は素晴らしかった。それぞれにオリジナリティがあり、演技に工夫がある。それでも、下り技は同じ。
方程式の問題が出され、途中の解法には様々なパターンがあるが、最後の出口は一緒。そしてこの着地を全員が見事に決める。
ハイレベルの戦いを目にして胸が熱くなったが、自分の演技に集中した橋本は15.300で3位に浮上していた。
心の波は穏やかになっているように見えた。
そして日本人6人目の「個人総合王者」に
そして最終種目は、橋本が得意とする鉄棒だった。