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“アテネ金”冨田洋之が語る橋本大輝19歳「中学時代は全国レベルではなかった」「私もこの半年間の成長に驚かされた」《体操個人総合・金》 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2021/07/29 17:30

“アテネ金”冨田洋之が語る橋本大輝19歳「中学時代は全国レベルではなかった」「私もこの半年間の成長に驚かされた」《体操個人総合・金》<Number Web> photograph by JIJI PRESS

体操男子個人総合、橋本大輝(順大)が最終6種目目の鉄棒で3位から逆転し、金メダルに

「素質の片鱗は感じられるものの、技が単発で演技として構成されていないような状態で、中学時代に全国大会での実績はありませんでした」

 体操競技の演技とは、技と技をつなぎ、作品として仕上げることだ。中学時代の橋本は、作品を作り上げる段階にまで到達していなかったという。

冨田が驚いた「橋本の半年間での急成長」

 ところが市立船橋高校に入学すると、幼少期からトランポリンで身につけていた空中感覚が技の開発、作品作りに生かされるようになる。あん馬と跳馬は得意としていたが、鉄棒での離れ技にダイナミズムが生まれてきた。そして2019年、高校3年生で世界選手権の代表に選出される。

 2020年、本来のオリンピックイヤーに冨田氏が指導する順天堂大学に入学するが、残念なことにコロナ禍で練習が制限され、大学での練習が思うように進まない。

 ところがコロナ禍が落ちつき、大学での練習が再開した時、冨田氏は橋本の可能性に気づいたという。

「橋本は明確な課題をもって練習に取り組むようになっており、おそらく満足に練習できない期間に、演技の方向性を定め、イメージを大きく膨らませていたと思われます。

 そして2020年の秋から2021年に東京オリンピックの代表に内定するまでのおよそ半年間、短期間で自分のイメージを実現させてしまいました。ポテンシャルがあるのはわかっていましたが、半年間でよくぞやってのけたと、私自身も驚かされました」

 橋本こそは、オリンピックの延期を最大限に生かしたジムナストだろう。

 ゆか運動ではG難度の「リ・ジョンソン」(アメリカ人ではなく、北朝鮮の選手が開発)、跳馬ではスペシャリストでも難しいD難度の「ヨネクラ」、そして苦手としていた平行棒も克服し、6種目トータルでのDスコアは世界最高レベルの37点に達していた。

 もしも、予定通りに2020年にオリンピックが開催されていたとしたら、代表入りはしていただろうが、個人総合で世界の列強と競い合うことが出来たかどうか……。

「13・533」つり輪での誤算

 7月28日の夜、橋本は個人総合王者になるための準備を完璧に整えていた。

【次ページ】 「13・533」つり輪での誤算

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