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「俺はナルトみたいに走るんだ!」落ちこぼれランナーが“日本のアニメパワー”で名門大学生&五輪代表になるまで 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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posted2021/07/30 17:00

「俺はナルトみたいに走るんだ!」落ちこぼれランナーが“日本のアニメパワー”で名門大学生&五輪代表になるまで<Number Web> photograph by Getty Images

全米の陸上五輪選考会800mで2位に入り、東京五輪に出場する24歳のアイゼア・ジュエット

 漫画との出会いは小学生のときだった。読解に少し難があり、教科書を読むのが苦手だったという。その状況を見た母ビーナスさんは、漫画なら文字をうまく読めるのではないかとアメリカの漫画を買ってきてジュエットに渡したのがきっかけだった。

「アメリカの漫画は色が派手で。僕は目があまりよくないので、その色が目にきつくて読めなかった。そしたら母が今度は日本の漫画を買ってきてくれたんだ。白黒で目にも優しくて内容もとっても面白くて、僕はすぐに夢中になった」

『ドラゴンボール』や『NARUTO』などの少年漫画から、『のだめカンタービレ』などの少女漫画まで、好きなジャンルは幅広い。多くの漫画やアニメに触れるうちに、学習能力も改善され、今では米国でも名門USC(南カリフォルニア大学)で奨学金をもらいながら陸上選手として活躍している。当然ながら本人の努力があってのものだが、日本の漫画とアニメというツールが彼の学習を補佐したというのも興味深い。

 勉強だけではなく、漫画やアニメはジュエットのスポーツ人生にとっても大きな役割を果たしている。

「僕にとっては漫画やアニメは絶対的なものだ」

 今でこそ183cmの長身だが、子供の頃は小柄で痩せていた。

 バスケットボールなどほかのスポーツもプレーしていたが、「僕は小さかったし、あまり上手じゃなくて、レギュラーになれなくてとても悔しかった。陸上でもジュニア選手権などに出られるレベルではなかった。一生懸命やっても選ばれるのは他の子だった」。

 ミーティングでコーチからメンバーが発表されるたび、涙をこらえて家路についた。自分の部屋に入るとすぐに漫画を開いた。悲しい、涙が出るシーンのページを。

「気持ちを抑えすぎてうまく泣けないときは、悲しいシーンを見て泣いたんだ。アニメや漫画は僕らの心を開かせる魔法を持っている。喜怒哀楽が明確に表現されているから、感情移入しやすい。吹き出しの一言、一言に力があって、泣かせたり、元気にさせたり。言葉に強いパワーがある。僕にとっては漫画やアニメは絶対的なものだ」

 悲しい気持ちを開かせてくれるだけではなく、勇気もくれた。練習やレースでつらい局面やがんばらないといけない局面には、いつも「アニメのワンシーン」が降臨するという。

「(400m代表の)ノーマンや(400mハードル代表の)ベンジャミンと一緒に練習することもあるんだけど、彼らはラスト1本になると設定ペースよりも上げてくる。スピードのある彼らについていくのは僕にはきついんだけど、『負けないぞー』って思って食らいつく。その時も元気が出るアニメのシーンが頭に浮かんでくるよ」

【次ページ】 スタート直前に浮かんだのは『NARUTO』の歌

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