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「俺はナルトみたいに走るんだ!」落ちこぼれランナーが“日本のアニメパワー”で名門大学生&五輪代表になるまで
posted2021/07/30 17:00
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
「トンネルの中で後ろからは電車が迫ってきていた。逃げ場はない。『無理。絶対に無理よ』って(女性キャラに)言われるんだけど、主人公は『俺は諦めない。絶対に諦めないぞ』って言いながら女性を背負って走り出す。主人公は諦めないで走り続けて、トンネルから無事に抜け出すことができたんだ」
レース後のインタビューで、アイゼア・ジュエットはアニメの1シーンを満面の笑みで説明している。
聞いている記者たちの頭の中には「?マーク」が100個くらい浮かんでいる。(あれ、今、どういうレース展開で走ろうと思いましたか、って質問したよな。なぜアニメ。しかもそのアニメ分からないし、ちょっと何言ってるか分からないけど、楽しそうだからいいか)
脳天にビビビッとアニメの1シーンが降臨
6月に開催されたアメリカの陸上オリンピック選考会、男子800m。このレースはドーハ世界陸上金メダルのブレイジャー、リオ五輪銅メダルのマーフィなどが大本命と見られ、彼らを中心にレースが進むとみられていた。
ところが序盤250mで黄色の大学生のジュエットが先頭に立ち、400m50秒60のハイペースで進む。後半、他の選手も追い上げるがジュエットは必死に逃げる。ラストでマーフィにかわされたものの、2位を死守し、オリンピックの切符を手にした。
「コーチに250mくらいから行けって言われていた。その地点に来た時に一瞬躊躇したんだ。でもアニメの『NARUTO』のシーンが脳天にビビビッて降臨して、そうだ、俺はナルトみたいに走るんだ。いくぞ、いくぞ、俺は諦めないぞ、そう思って飛び出した」
それが冒頭のアニメのシーン(『劇場版 NARUTO-ナルト- 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!』)の解説だった。
無類のアニメ好きで名門大学にも合格
ジュエットは日本のアニメ・漫画が好きだが、その背景が少し興味深い。