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福島県予選で波乱「14回連続甲子園が消えた夏」 聖光学院監督が明かす“最後のミーティング”「選手たちは笑顔だった」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/07/25 17:45
最後のバッター2年生山浅を3年生たちが抱えながらベンチへ下がる
まるで事件であるように、瞬く間にインターネットで拡散され、ツイッターのトレンドで1位となった。なにせ、昨年の独自大会を含めれば、夏は2007年から14年連続優勝。連勝記録を「87」まで伸ばしていたのだ。今年も福島の頂点に立てば、和歌山県の和歌山中(現桐蔭)が戦前に樹立した14大会連続優勝の最多記録に並ぶはずだったことからも、その敗戦が世間に与えた衝撃は大きかった。
――連覇が途切れてしまったが、プレッシャーなどはあったか?
言うまでもなく、そんな質問も向けられる。斎藤の表情は変わらない。気丈というより毅然。距離を取っていても目力が伝わってくる。
「どこかで途切れるのが記録ですからね。記録だけのことで言えば14大会連続優勝はしてみたかったですが、そこに屈したわけではありませんので。2連覇、3連覇の時はそういう感情もありましたが、今はありません。1年、1年の積み重ねが今年潰えただけ」
試合後の斎藤はそう答えたが、本当のところは少し違う。連覇のプレッシャーと向き合っていたのは、正確には戦後最長記録を更新する9連覇を達成した15年までである。そこからは言葉通り「1年の積み重ね」でチームを育成し、連覇を13まで伸ばしたわけだが、この間にももちろん葛藤はあった。
連覇という「十字架」の重みだ。
毎年、負荷が増すその重みと戦い続けるなか、斎藤や横山をはじめとする聖光学院の指導者たちは、連覇という実績に惑わされることなく、チームの歩みの集大成に精魂を注いできた。
「3年生にとっての初優勝」という勲章。それが14年続いてきたのだと、彼らは誇る。
「負けたことについて話したくはないよね」
しかしながら、斎藤には心の奥底にしまっている感情もある。これまで、そのことを匂わす言葉を何度か聞かされたことがある。
「口が裂けても生徒らには言えねぇし、スタッフ全員がそんなそぶりを見せちゃいけないんだけど、正直、思うことはあるんだ。『連覇』だなんだ言われて、生徒たちが十字架を背負わされて苦しむくらいだったら、いっそのこと負けちまって再スタートを切ったほうが、みんなすっきりするんじゃねぇかって」
敗戦翌日。少しは気持ちの整理がついたかもしれないと、そのことを確かめたくて斎藤に電話すると、口調は穏やかだったが、滑らかではなかった。