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福島県予選で波乱「14回連続甲子園が消えた夏」 聖光学院監督が明かす“最後のミーティング”「選手たちは笑顔だった」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/07/25 17:45
最後のバッター2年生山浅を3年生たちが抱えながらベンチへ下がる
それは比較的、和やかな雰囲気だったと、斎藤が教えてくれた。
監督が茶化すように仕向ける。
「『完璧なチームに仕上がった』って、自信を持って送り出したんだけどな。俺はお前らに騙されたってことか?」
駆け引きのない笑顔を見せる斎藤に、選手たちもつられて笑った。
負けた悔しさは、ある。
でも、すっきりしている。
いつか訪れる、連覇が途絶える日。その時、斎藤に言おうと決めていたことがあった。
――これでまた一歩、日本一に近づいたんじゃないですか?
はははは。斎藤が笑う。「そうかもしれないね」と相槌を打ち、答える。口調は負荷から解放されたように自由で、滑らかだった。
「負けて日本一に近づけたかどうかはわかんねぇけど、大きな山に向かって、また1から小さなことを積み重ねていくしかないよね」
電話口からは選手たちの気勢が届く。聞けば、紅白戦を行っているという。
新たな旅は、すでに始まっている。
甲高い金属バットの打球音が、生命を宿しているかのように、逞しく反響していた。