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福島県予選で波乱「14回連続甲子園が消えた夏」 聖光学院監督が明かす“最後のミーティング”「選手たちは笑顔だった」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/07/25 17:45
最後のバッター2年生山浅を3年生たちが抱えながらベンチへ下がる
「正直、負けたことについて話したくはないよね。決して気分がいいもんじゃねぇから」
そうだった。斎藤は連覇が途絶えたから言っているわけではない。敗戦が甲子園だろうが県大会だろうが、いつだって「負け試合を喋るのにはパワーがいるんだ。終わってすぐの取材は勝った時以上に答えるようにしてっけど、疲れるよ、負けたことを聞かれて喋んのは」と、メディアを気遣っている。斎藤が負けた試合と対峙できるのは、時間をかけ、趣味のドライブなどで心をデトックスしてからだ。短くても2、3週間は必要となる。
「日本一になれなかった原因かもしれないね」
斎藤の聖域に土足で踏み込んでしまうような心苦しさはあったが、それでもやはり、生の声が聞きたかった。
――連覇という十字架、言ってしまえば手かせ足かせが取れた今、新たな聖光学院としてスタートを切れそうな気がします。
うぅん。同調するよな、否定的に唸るような、そんな曖昧な反応から、斎藤が声を吐く。
「連覇に対するプレッシャーは本当になかったんだ。(13年の秋季大会で途切れた県内公式戦の連勝記録である)95連勝だ13連覇だなんて、もう1回やろうとしてもできないし、挑もうともしない。一瞬、1秒を大事にしてきた結果、そういう派手な記録を作れただけだから。
でも、思うところもあるんだ。生徒らは認めないかもしれないけど、連覇している間、その年数が重なれば重なるほど、潜在意識のどこかで『甲子園に出られてよかったぁ』って安堵しちゃうというかね、そこをゴールにしていた部分もあったと思うんだ。そういうのが結果的に、13連覇しても日本一になれなかった原因なのかもしれないね」
聖光学院の偉業を打ち砕いた光南を素直に称え、連覇への未練だって微塵もない。そう思えるのは、今年のチームが例年になく仕上がっていたからなのだろう。そこに関しては、斎藤も迷わず「んだね」と認めた。
「本当にすっきりしてんだ」
その言葉には、淀みも偽りもない。
「完璧に仕上がったからって勝てるほど、勝負の世界は甘くない。負ける時は負ける。それは、甲子園に出ていた時だってわかってたことだかんね。『こんなにいいチームで負けたらしょうがない』。そこをゴールに毎年、チームを育ててるわけだけど、今年は今まで以上にしっかりやれた。でも、勝負には負けた。そこを受け入れられたからこそ、すっきりしてんだと思うんだよね」
このチームで負けても悔いはない――斎藤が確信した時、必ず「仕上がった」と言う。その時期は世代によって異なり、ほとんどが県大会中に訪れる。東北大会を制した昨年の独自大会ですら、県大会準決勝あたりでようやく監督の「お墨付き」をもらえたくらいだ。かたや今年のチームは、県大会を迎える前に、斎藤は自信を持って「仕上がったね。本当にいいチームになってくれた」と太鼓判を押すほどだった。
今年はまるで、13連覇を成し遂げた、その根源を体現したようなチームだった。
聖光学院が「仕上がる」3段階
聖光学院が仕上がるためには、次のように大きく3つの段階を経なければならない。