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[指揮官・稲葉篤紀の戦略]侍ジャパン「非情采配もセオリー破りも」
posted2021/07/18 07:02
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
MURAKEN
「ドリームチーム」を謳い乗り込んだ北京五輪は屈辱のメダルなし。なぜか勝てない夢舞台の鬼門を打ち破るには、一体何が必要なのか。代表24選手の発表を終えたばかりの将が、覚悟と構想を語った。
普段の穏やかな姿とは裏腹な強かな本性を見たのは2019年11月5日の台湾・桃園国際野球場で行われた「プレミア12」のベネズエラとの初戦だった。侍ジャパンは大苦戦を強いられ、2対4と2点を追う8回の1死満塁。そこで稲葉篤紀監督は、不振の坂本勇人内野手の代打に山田哲人内野手を送ったのである。
「あれは僕から選手へのメッセージでした。ジャパンというチームはまず勝利主義なので勝つことが優先。そのためには(坂本)勇人でも代えなければいけない。僕は優しい人と人から言われることが多いのですが……。でも、あそこで勇人に代打を送ることで、『ああ、稲葉監督ってこういう野球するんだ。ここで代えるんだ。勝つために代えるんだ』って。そういうメッセージでもあったわけです。そういう発信になったはずなんです。もちろん迷いました。代えられた勇人の気持ちもあるしプライドもある。でも、僕が現役時代の2013年からジャパンで一緒にやっていて、コーチ時代もやっている。必ず分かってくれる、という思いがありました。勇人も分かってくれた。そこの関係性だと思いますね」
日本代表の戦いを支えるのは徹底した勝利主義である。その中で固定観念を捨て、チームを状況に応じて変化させていく。そのことを稲葉監督が心に強く刻んだのは、自らが選手として参加し、星野仙一監督が日本代表チームを率いた2008年の北京五輪での経験だった。