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《6場所出場停止》大関・朝乃山の処分は重すぎ? 能町みね子と相撲担当記者が徹底検証 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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posted2021/07/10 17:01

《6場所出場停止》大関・朝乃山の処分は重すぎ? 能町みね子と相撲担当記者が徹底検証<Number Web> photograph by KYODO

昨年3月に大関に昇進した朝乃山。今年の5月場所の最中に、相撲協会のガイドライン違反が発覚した

 能町さんがおっしゃったように「平時であればキャバクラに行こうがまったく問題ない」のですが、なんでいけないかというと、本人がコロナに感染してしまい、集団生活である相撲部屋の他の人間にうつしてしまう。あげくは本場所開催そのものに影響してくる可能性がある。個人だけにとどまらない、大きな影響を秘めているというところ。そこが処分の重くなる要因のひとつだと思っているんですよ。それこそ協会員約1000人の生活、ひいてはその家族たちの生活にも関わり兼ねない。その観点での捉え方をすれば、なかなかに重大な事だと判断されたのではないか、と。あと、この文書を読むとよくわかるんですが、キャバクラに行くことよりも、事実を曲げようとした聴取時の態度についての重さが加味されているんですよね。 外出禁止を破っただけでなく、師匠をはじめ、同じ協会に属する関係者たちに虚偽の報告をした――これがもっと重たいことなんだと。

佐藤 昨年5月には、高田川部屋の力士がコロナに感染して亡くなる不幸もありましたものね……。処分内容の文書から抜粋しますが、「事情聴取を受けた際にはキャバクラ通いの事実を否定するとともに、整体治療のための外出であった旨の虚構を申し立てた」「本件記事が公になって以後の世間的な評価が、外出禁止期間中のキャバクラ通いへの批判よりも、事実を捻じ曲げようとした態度への非難が多いのは当然というべきである」「大関の地位にあったのであり、より厳しく自らの行動・生活を律して、他の力士らの模範となるべき立場にあったというべきである」などなどと、こうして改めて読むとかなり厳しい文言も並んでいますね。

佐々木 協会側は、外出禁止を破ったことと同時に、「その部分こそが、より重たいことでもあるんだ」と説明しているんですよね。メディアを通すと、どうしても「キャバクラ」というパワーワードが強く前面に出てしまい、伝わりにくくなってもいるんです。

能町・佐藤 なるほど……。

「相撲界の常識は世間の非常識」の終わり

佐々木 尾車コンプライアンス部長(元大関琴風)も、「朝乃山は最初から本当のことを言っていれば、3、4場所で、ここまでの処分ではなかっただろう」と明言しているんです。それと、ご存じの通り、相撲界は師弟関係、信頼関係を大事にします。今回は昨年11月に朝乃山の所属する高砂部屋の師匠が交代したばかりでもあり、師匠の監督責任も問題視され、師弟関係の在り方にも言及されていました。「師匠がちゃんと監督できていない」ともはっきり指摘されているんですね。大関がこんなに何度も外出していたら、本来なら師匠がわかって然るべきだ、と。平時であれば、すべて”相撲界ならではのおおらかさ”とも言えたんですけど……。「相撲界はそこが良いところなんだから」というのが、そうでもなくなって来ている印象です。われわれが相撲界を好きなのは、そういうところでもあったわけじゃないですか。

佐藤 そうですよね。昔から「相撲界の常識は世間の非常識」なんて揶揄する言葉もあるくらいで、どこか別世界で”治外法権”みたいなところもありましたし。歌舞伎界や落語などの芸の世界もそうかな。一般社会とは違う世界だと思っていたけれど、昭和から平成、令和になり時代も変わってしまった。モラルなどの点でも、求められるもの――私たち日本人の見方や捉え方も変化してきているんだと思います。ひとつには、相撲協会が公益財団法人になってしまったのも大きいと思うんだけれど。言ってみれば、あくまでも一連の処分は「協会内のガイドライン違反」。組織内で決めたルールに反したというだけで、世間が責めることでもないとも言える。けして法律違反をしたわけではないんですよね……。

(【続きを読む】大関・朝乃山と番記者が一緒に“深夜外出した”問題…他紙デスクに聞く「番記者の関係は近すぎたのか?」 へ)

能町みね子(のうまちみねこ)

漫画家・コラムニスト。『週刊文春』にてコラム「言葉尻とらえ隊」連載中。好角家としてNHK『ニュースシブ5時』にて「能町みね子のシブ5時相撲部」のコーナーを担当。近著に『結婚の奴』(平凡社)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)など著書多数。

 

佐々木一郎(ささきいちろう)

1972年千葉県生まれ。96年、日刊スポーツ新聞社入社。オリンピック、サッカーなどの取材を担当し、2010年3月場所から大相撲担当。現在はスポーツ部デスク。ツイッターでは「イチローデスク」と呼ばれ、大相撲ファン4万7000人ものフォロワーを持つ。著書に『稽古場物語』(BBM社)。

 

佐藤祥子(さとうしょうこ)

1967年千葉県生まれ。週刊誌記者を経て大相撲を中心とするフリーライターに。月刊『文藝春秋』にて「大相撲新風録」連載中。『Number』にて相撲コラムを担当。著書に『相撲部屋ちゃんこ百景』(河出書房新社)、『知られざる大鵬』(集英社)など。

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