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「アイドルを目指して、自己否定が止まらなくなった」 絶叫するシンデレラ、上谷沙弥はプロレスのセンターに立つ
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/06/29 11:01
上谷沙弥はそのたぐいまれな身体能力を活かし、ダイナミックな技で観客を魅了する
ストリート・ダンスの世界大会で準優勝
上谷は小学校3年生から高校を卒業するまで、ずっとストリート・ダンスをやっていた。通っていたのはレベルの高いダンス・スクール。一番上の「選抜クラス」に入ることができて日本大会で優勝した。学業もあったので小学6年生の時、1回だけ日本大会に出場して優勝、中学1年生の夏にラスベガスの世界大会に行った。準優勝だった。
器械体操は小学3年から2年間だけだが、週1で地元の楽しくやる所で学んだ。跳び箱、鉄棒、そしてマット運動があった。前転、後転、倒立前転、バク転、宙返りとレベルアップしていった。
「ダンスも器械体操も海や家の中でも練習しました。練習というよりは遊びという感覚。平均台もジャズダンスもやっていました。バランス能力はそこで培われたのかもしれないです」
フェニックス・スプラッシュはコーナーからの高速回転急降下アタックで飯伏幸太(新日本プロレス)の得意技だが、難易度はかなり高い。一歩間違えたら、命にかかわる危険な技でもある。でも、上谷は空中殺法に憧れと夢を抱いてきた。
「練習生になったころは、プロレスは“怖いもの”という感じでした」
ある日、上谷はYouTubeで飯伏の試合を見た。飯伏が華麗に宙を舞っていた。
「こんなプロレスもあるんだ。私もこんなふうになりたい!」
コーナーを蹴るときは背面だから相手は見えない。
「頭でイメージを掴んで、やってみる。空中で回転する技は見栄えもいいし。最後は思い切って飛びました」
鎌固めは「思い入れのある技」
空中戦の派手さと対照的な技も上谷は使う。鎌固めという技はインディアン・デスロックの態勢からブリッジして相手の首をロックしてそらすものだ。
「鎌固めはデビュー戦から使っています。体が柔らかいからいいんじゃない? って先輩に勧められて。思い入れのある技だから今も使い続けています」
24歳の上谷は知らなかったが、鎌固めはアントニオ猪木が新日本プロレスを旗揚げしたころノーテレビの時代に使っていた技でもある。