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ラグビー日本代表で観たいSO山沢拓也の“特別な才能”とは? 「2023年」に必ず求められるだろう“Xファクター”の最有力
posted2021/06/20 17:00
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph by
Kiichi Matsumoto
黒ジャージーの背番号10からは、躍動感があふれ出ていた。
6月12日、静岡エコパスタジアムで開催された日本代表の強化試合。2019年ワールドカップ(W杯)以来、1年8カ月ぶりに行われた日本代表の強化試合で、最も輝いたのは、対戦相手として結成されたサンウルブズのSO山沢拓也(パナソニック)だった。
前半10分、山沢が左サイドへ放ったロングパスが号令だった。サンウルブズのアタックが次々と前に出る。
柔らかいボールタッチ。糸を引いたようなロングパス。絶妙にコントロールされたキック。
前半19分には日本代表のゴール前、ディフェンスライン裏のデンジャラスゾーンに計ったようなキックを落とし、猛ダッシュで落下点に走り込み、到達しては相手DFと競りながらドリブルでボールを前に送り、SH荒井康植(キヤノン)の先制トライをアシスト。左隅からの難しいコンバージョンキックも鮮やかにHポストの隙間に通した。
35分にはドロップゴールを外すが、39分には左右にボールを動かしてWTB竹山晃暉(パナソニック)のトライにつなげ、再び左隅からのコンバージョンを成功。後半も、交代で入ったばかりの日本代表WTBシオサイア・フィフィタ(近鉄)のカウンターアタックに食らいつき、ジャージーを掴んで引きずり倒した。
試合は日本代表が32-17で逆転勝ちしたが、輝いたのはむしろサンウルブズだった――そう思ったファンも多かっただろう。
「次のW杯に出る力は十分にある」
山沢は、試合が始まる前から注目の存在だった。
「我々のチームに2人の若いSOがいることを誇りに思う。彼らが優勝を手にしたことは日本ラグビーにとって素晴らしいこと」
パナソニックのロビー・ディーンズ監督がそう言ったのは、5月23日のトップリーグファイナルで優勝を飾った試合後だった。2人とは、パナソニックの先発SOで出場した松田力也と、途中出場した山沢のことだ。
松田は2019年W杯で田村優(キヤノン)とともにSOで代表入りしていたが、5試合すべてでベンチスタートだった。
山沢は2017年のアジア選手権で、サンウルブズを除いた若手メンバーで臨んだ日本代表で3試合に出場したが、それ以後は代表に選ばれていなかった。2018年度にはトップリーグのベストフィフティーンを受賞するほど安定したパフォーマンスを見せたが、W杯を目指す日本代表候補合宿に呼ばれることはなかった。
だが、2021年のトップリーグで、パナソニックは司令塔のSOを1994年生まれの日本人選手2人で乗り切り優勝を飾る。そしてロビー監督は言ったのだ。
「この2人には、次のW杯に出る力は十分にある。W杯の10番を担うに相応しいプレーヤーであることを示してくれたと思います」
この時点で、山沢は日本代表スコッドには選ばれていなかった。2021年春シリーズを戦う日本代表候補メンバー52人は4月12日に発表されたが、SOで選ばれたのは田村と松田というW杯メンバーと、今季のトップリーグで才能の片鱗を見せた新鋭・前田土芽(24歳/NTTコム)の3人。トップリーグで複数年にわたって目を見張るパフォーマンスを続けてきた山沢の名はなかった。