ラグビーPRESSBACK NUMBER
ラグビー日本代表で観たいSO山沢拓也の“特別な才能”とは? 「2023年」に必ず求められるだろう“Xファクター”の最有力
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/06/20 17:00
サンウルブズの一員として出場した日本代表戦でチャンスを多く演出したSO山沢拓也
その山沢が、日本代表の対戦相手に選ばれたのだから、注目されるのは必然だった。「代表入りへアピールチャンス」――メディアもファンも、そういう意味づけで山沢を見た。
しかし本人は欲を見せなかった。サンウルブズが集合した直後の6月9日に行われたオンライン会見で、代表スコッドに選ばれなかったこと、2023年W杯への思いを問われた山沢は答えた。
「自分ではけっこう割り切っていて、今回はサンウルブズとして試合を楽しむことだけにフォーカスしています。複雑な思いはないです。まあ、相手にパナソニックのメンバーが多いので、正直イヤだな、でも楽しみでもあるかな、というくらいです」
口調にネガティブなニュアンスは感じられなかった。代表に選んでもらえるかどうかは自分で決められることではない。そこは頭から追い出し、目の前の試合を楽しむことに専念しよう。まさしく本人が言った通り「割り切り」が感じられた。
「10番をやりたいけれど、こだわりはない」
その一方で、本人に聞いておきたいことがあった。
今季のパナソニックの試合で山沢は松田との交代でSOに入るだけでなく、途中交代でFBやWTBのポジションに入ることがあった。ゲームタイムは長くなかったが、相手キックを捕球してからのカウンターアタック、キックを蹴り返し自らチェイスしてのチャンスメーク、アンストラクチャーのアタック……予測できない、崩れた局面から始まるプレーであればあるほど、山沢の特別な能力が発揮された。
――今季はWTBやFBに入る場面がけっこうありましたが? 山沢は答えた。
「FBに入ったときは、10番と比べて自由というか、10番のときはチームをどう動かすとチャンスになるか、チームにフォーカスしていたけれど、15番のときは自分がどうアタックするか、自分にフォーカスできたというか、自分のやりたいようにプレーできた部分があります。10番とは全然違う視点があって、思い切りアタックできる面白さがあった。基本的には10番をやりたいけれど、そんなにこだわりはありません」
ラグビー界の永遠のテーマ
「10番問題」は、ラグビー界では古くて新しい、つまり時代を超えたテーマだ。
古くは1987年の第1回W杯の時、オールブラックスにはフラノ・ボティカというランニングプレーに秀でたSOがいたが、W杯でSOに起用され、NZの優勝に貢献したのは大会前に「キックだけ」と評されていたグラント・フォックスだった。
2000年を挟んだ時代、NZには変幻自在のプレーで「キング」と呼ばれたカーロス・スペンサーがいたが、多くのテストマッチでタクトを預けられたのはキックで手堅くゲームを作るアンドリュー・マーテンズだった。
フランスではフレンチ・フレア(ひらめき)の申し子と呼ばれたトマ・カステニエドがいくつものスーパートライを作ったが、1999年W杯でオールブラックスを破る伝説の試合でタクトを振ったのはキックが持ち味のクリストフ・ラメゾンだった。
日本でも、ひらめきあふれるプレーが持ち味の岩渕健輔ではなく、キックで手堅くゲームを進める廣瀬佳司が重用された。
勝ちを狙うには“ファンタジスタ”は不要――それはラグビー界に根強い常識でもあった。その鉄則からみれば、変幻自在のプレーが持ち味の山沢よりも、キックで手堅くゲームをコントロールする田村、松田のほうがテストマッチの10番には似合う――そう見られるのは自然な成り行きだったかもしれない。
実際、6月13日に発表された欧州遠征メンバーに、山沢の名が加えられることはなかった。