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【50歳】前田智徳と鈴木誠也が似ている? 山本浩二や達川光男が語った「前田は天才じゃない」22歳当時の“仰天発言”も
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/06/14 06:00
孤高の天才と呼ばれた前田智徳も今年で50歳。現在は解説者としてユーモアあふれるトークで野球ファンを魅了している(写真は1992年)
<名言4>
線でボールをとらえてレフト方向にも打ち返せる。前田智徳さんのスイングの軌道だと思いましたね。
(松本有史/Number962号 2018年9月27日発売)
◇解説◇
2018年シーズンを大きな飛躍の年にした広島・西川龍馬。
社会人野球の王子時代、そのバッティングに目を奪われたと振り返るのが松本有史スカウトだ。バットをムチのようにしならせ、インパクトの瞬間はバットとボールがくっついているように見えたという。
「線でボールをとらえてレフト方向にも打ち返せる。前田智徳さんのスイングの軌道だと思いましたね」
176cm、72kg。決して大柄とは言えない、むしろユニフォーム姿を近くで見ると華奢。それでも松本スカウトはその素質に惚れた。
「西川が打者としてあのくらいやるのは、見えてました。(鈴木)誠也もよく『あいつは天才ですよ。変化球も右手一本で拾っていとも簡単にヒットにする』って感心していますし」
松本自身も現役時代はカープで内野手として活躍、04年にはウエスタン・リーグで打点王を獲得している(当時の登録名は松本奉文)。自らの眼を信じることができたのは、無駄のないフォームで「芸術品」と称された偉大な先駆者の打撃を見てきたからこそ。
赤ヘルで見せてきた前田の生き様はしっかりと次世代へと繋がっているのだ。
涙のホームランの真相とは?
<名言5>
涙のホームランですか? ホンマ、マスコミも巧くこじつけてくれますワ(笑)
(前田智徳/Number322号 1993年8月20日発売)
◇解説◇
1992年9月13日、東京ドームの巨人戦。5回裏、外野の守備についていたプロ3年目の前田は、巨人・川相昌弘の打球を後逸し、同点に追いつかれる大きなミスを犯した。それは同時に大先輩である北別府学の勝利投手の権利を消失させることを意味していた。
しかし前田は、8回に自らのバットで取り返す。巨人・石毛博史から目の覚めるような勝ち越しの2ランを放ち、もつれた試合に決着をつけた。ダイヤモンドを駆ける若きバッターは込み上げてくる熱いものを抑えることができず、感情の発露が涙となって現れた。
誰もがそう解釈していたが、当の本人は唇を噛み締めながらこう振り返る。
「自分に悔やしくて泣いたんですよ。(ミスを)取り返さんといけんかった打席(6回)で、センターフライに倒れてしまった。あそこで打てんかった自分は本物やない。そのことに腹が立って泣いたんです。最後にホームランを打ったところで、自分のミスは何ら消えることがない。あの日、自分は負けたんです」
このインタビューでの冒頭で、22歳の前田はこんなことも言っていた。
「今の野球はね、好きじゃないんですよ。ちょっと活躍すれば、すぐにもてはやされる。マスコミが“アイツはいい選手だ!”とおだてれば、素人はすぐにだまされる。だから、そんな素人にちょっとは言ってやりたいんですよ。野球はそんなに甘っちょろいもんじゃないんだぞって……」
野球に対して誰よりも真摯に向き合う姿勢は、ずっと変わらなかった。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。