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バイエルンの新監督、ナーゲルスマン33歳の“チームのほぼ全員を成長させる”手法とは? ベースには「祖父の教え」が
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/06/10 11:00
33歳にしてビッグクラブを率いることになったナーゲルスマン。指導者としての原点と、その人柄とは?
唯一、緊張したのは最初にチームの前で自己紹介したとき
ナーゲルスマンは、どのように指導者キャリアを歩んできたのだろう。
28歳6カ月15日。2016年、ホッフェンハイムの監督就任が発表された日のナーゲルスマンの年齢だ。人生初となる記者会見では、そこまで神経質になることはなかったと後日明かしている。
「あまりにも突然にすべてのことが進んでいったから、ナーバスになる時間もなかった」
そんなナーゲルスマンが唯一緊張したというのが、最初にチームの前で自己紹介するときだったという。ブンデスリーガのクラブのモダンな控室は広さもすごい。テーブルにはスタッフ用に準備された果物や飲み物が置かれている。
席に座った選手のなかには、ナーゲルスマンより年上もいたという。ピシッとした雰囲気のなか、選手の注目に応えるだけのスピーチをしなければならない。
「僕自身の(十分ではない)選手時代のキャリアを考えると、最初のコンタクトをうまくやらなきゃいけないことはわかっていた。選手たちは、みんなこちらを注意深く見ている。どんな気持ちを抱かせてくれるのか。どんな言葉を発するのか。そこで、チームをすぐに惹きつけなければならなかった」
すべてが初めてのことだった。ナーゲルスマンの指導者としての才能はクラブ内では注目されており、遅かれ早かれトップチームの監督になるべき存在だという共通認識が首脳陣の間にはあったという。
だが、そうした実情を外部の人間は知らない。28歳の青年監督で、まだブンデスリーガのクラブで監督をするために必要なプロコーチライセンス講習会に参加中で、しかも残留の可能性が極めて低くなっている状況でチームを引き継ぐことができるのか?
「お手軽なアイデア」「PR目当ての冗談」との皮肉も
シーズン途中の28歳の新監督就任に対して、『フランクフルタールンドシャウ』紙は「ホッフェンハイムのお手軽なアイデア」と見出しを打った。『ラインネッカー』紙は「PR目当ての冗談」と皮肉った。U-19ホッフェンハイムをドイツ王者へ導いていたものの、大人のチームも、プロクラブで指揮を執るの初めて。懐疑的になるのも無理はない。
それに、残留争いで生き残るためには、メンタリティこそが大事という考えが根深い。だから、気合い全開で倒れるまで走れるようにマインドセットできるかどうかが重要だと誰もが信じていた。