熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
給与未払いに人種差別…ロベカル、パウリーニョらブラジル人も東欧でモメていた 浅野拓磨の“泥仕合”に共通する教訓
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byGetty Images
posted2021/05/08 11:02
浅野拓磨の電撃退団で波紋が広がっているが、シャムスカ監督やパウリーニョの証言は興味深い
「クラブの経営難が進行した2009年でも給料はきちんと支払われたのですか」と興味本位で尋ねた。すると、彼は両手を広げ、「私もコーチも選手もスタッフも、給料の支払いが滞ったことは一度もなかった。これには本当に驚いた。日本は世界でも例外的な国だよ」と答えた。
つまり、クラブが危機的状況にあってもきちんと給料を支払うのは、世界のフットボールの常識ではまずありえない、ということだ。
さらに、東欧は西欧や中南米とは文化、メンタリティーが微妙に異なっており、他地域とではなかなか起こらない問題が発生することがある。世界100以上の国に約3000人もの選手を送り出している「世界最大の選手輸出国」ブラジルでも、過去、この地域のクラブへ移籍してトラブルに見舞われたケースは少なくない。
パウリーニョが味わった「最も醜い部分」
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「当時、僕はまだ10代後半だった。フットボールの世界の最も醜い部分を目の当たりにして、本当に幻滅した。フットボールなんかやめて別の仕事に就こう、と考えて帰国した」
当時のことをまざまざと思い出したのだろう、顔を歪めてこう語ったのは、元ブラジル代表ボランチのパウリーニョ(現広州FC)である。
強靭な体躯を持ち、中盤で高い守備力を発揮する一方で、攻撃の起点となる。派手さはないが、確かな技術と優れた判断力でパスを散らす。さらには、最前線へ飛び出して相手守備陣を攪乱し、自らも貴重な得点をあげる。
サンパウロ州4部のクラブの下部組織で育ち、2006年、17歳にしてリトアニア1部の中堅クラブ、ビリニュスへ移籍した。
「当時は全く無名だったが、東欧のクラブで活躍して西欧のクラブへステップアップするつもりだった」と語る。
しかし、ある日、そんな若者に大きなショックを与える出来事があった。