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給与未払いに人種差別…ロベカル、パウリーニョらブラジル人も東欧でモメていた 浅野拓磨の“泥仕合”に共通する教訓
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byGetty Images
posted2021/05/08 11:02
浅野拓磨の電撃退団で波紋が広がっているが、シャムスカ監督やパウリーニョの証言は興味深い
ブラジル国内の中堅クラブなどでプレーした後、スイスのクラブを経て2016年1月、パルチザンへ移籍した。
人種差別行為に中指を突き立てた結果、イエロー
2017年2月、宿敵FKラドとのアウェーゲームで、相手サポーターからボールに触る度に「サル」と罵られ、この動物の鳴き真似をされた。90分間、人種差別行為に苦しめられたエヴェルトンは、試合終了後、スタンドへ向かって中指を突き立てた。これを見たFKラドの選手たちが激高して彼に詰め寄り、主審はエヴェルトンにイエローカードを出した。
チームメイトから慰められ、スタンドの一角に陣取ったパルチザンのサポーターからは暖かい拍手を受けたが、号泣しながらピッチを後にした。
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「相手サポーターの振る舞いは、本当にひどいものだった。しかし、それ以上に残念だったのは、FKラドの選手たちがサポーターの行動を咎めるどころか容認していたこと。この国のフットボール全体に幻滅したよ」
エヴェルトンは、2018年までパルチザンに在籍。イタリアのクラブを経て、2019年からMLSのクラブでプレーしている。
ロベカルも人種差別行為に苦しめられた
元ブラジル代表左SBの名手ロベルト・カルロスも、ロシアの地で人種差別行為に苦しめられた1人だ。
2011年3月、ロシアリーグのアンジ・マハチカラ在籍中に宿敵ゼニトとのアウェーゲームで、ウオーミングアップ中にバナナを手にした相手サポーターから罵られた。その3カ月後にも、試合の終盤に相手サポーターがスタンドからバナナを投げ入れられ、憤然とした表情で自らピッチを去った。
ブラジルのある代理人が、このように語っていたことがある。
「西欧のフットボール強国のかなり名の知れたクラブでも、様々なトラブルに巻き込まれることがある。しかし、文化的に彼らは我々とそう大きくは違わないから、たいていのことには何とか対応する。でも、東欧の人々のメンタリティーは独特で、ブラジル人選手が東欧のクラブでトラブルに巻き込まれる確率はかなり高い。その国で名門と呼ばれるクラブであろうと、全く油断できない。だから、私が扱う選手が東欧のクラブからオファーを受けた場合、その国、リーグ、クラブを取り巻く状況などをよく調べ、不安を感じたら好条件のオファーでも断ることにしている」
ブラジル人も十分にしたたかだが、彼らとて舌を巻くような輩が世界にはいるということだろう。
フットボールの世界には、東洋の島国には決して存在しない魑魅魍魎が跋扈している。
日本人選手が世界へ出て行くということは、ピッチで戦うだけでなく、そういった連中と丁々発止、渡り合うということでもある。