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ビエルサの愛弟子が語るオシムとの違い 「人もボールも動く」サッカーは同じでも指導法が“真逆”なワケ
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph byGetty Images(L),BUNGEISHUNJU(R)
posted2021/04/18 06:00
共通点も多々あるビエルサ(左)とオシム
一方でビエルサは対人プレイや実戦形式の練習をほとんど行わない。相手プレイヤーに見立てたポールや人形を立て、選手の動きかたのトレーニングや、複数のパス交換の方法を繰り返し行うというような「シーン練習」がほとんどなのである。
例えばリーズの特徴的なプレイの1つにスローインがある。マイボールでスローインを行う場合、リーズの選手は前後左右にシステマチックに動きフリーでボールを受けるための動きを繰り返す。第29節のフルアム戦では前半29分、左SBアリオスキのスローインから左WGハリソンがクロスを折り返しFWバムフォードがゴールを奪うというシーンがあった。ゴールライン際のスペースを見つけて走り出しフリーでボールを受けたハリソンの動きがゴールを呼び込んだといえるプレイである。こうした動き方も「シーン練習」で周到に準備されたものの1つなのである。
ビエルサは“意識づけ”を選手に指導する
「マルセロ流の練習を日本では『パターン練習』という言い方をするのですが、厳密に言うとパターン練習ではありません。マルセロは自分の練習について『試合で実際に起きているシーンを抜き取って整理しているだけで、私が発明した訳ではない』とよく言います。そこで整理された『最適な動き』や『パスの方法』、『人の動き』をいくつか抽出して、“意識づけ”を選手に指導するという考え方をしています。ですから1つのパターンをただ繰り返すのではなく、1つのシーンにおいて実際に起きている複数の選択肢をおさらいし、いくつものプレイを組み合わせながら練習をしていくというのが正しい解釈だと思います。
実際のゲームでは相手も試合環境も全く同じという状況がない中で、選手が最適なプレイ選択をするためのサポートをマルセロはしているという感覚なのだと思います」
オシム「全ての知識は頭のなかに入れておくものだ」
練習への臨み方も両極だ。オシムは開始時間にグラウンドに顔を出し、終了と同時にクラブハウスを後にする。コーチが練習内容をメモに取ろうとすると、オシムは「さっきから何を書いているんだ!? 目障りだからやめてくれないか! 選手が試合中にメモを書いたり読んだりできるのか? 全ての知識は頭のなかに入れておくものだ」と釘を刺したという。自宅ではサッカーの試合を深夜まで「生観戦」するという生活スタイルだった。
「オシムさんを自宅まで送り届け、翌朝迎えに行くと同じジャージ姿で出てくることが多々ありました。ヨーロッパサッカーは深夜放送が多い。ああ、オシムさんは今日も朝までサッカーを見ていたんだな、と思いました。常に研究を怠らないのがオシムさんでした」(辰己)
一方のビエルサは、練習開始の数時間前からクラブハウスで準備に没頭し、終了後も監督室に籠り分析を続ける。ある種の強迫観念にかられているかのように、情報や知識の整理、試合分析を重視するスタイルを好むのがビエルサ流だ。