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渡辺一平「何が間違っていたのか…」競泳日本選手権に見た“一発選考”の重圧 五輪をかけた勝負後の選手たち
posted2021/04/12 17:20
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Kyodo News
緊張、歓喜、涙。さまざまな表情が交錯する。いつ見ても、胸に迫る光景だ。
4月3日から10日にかけて、競泳の日本選手権が行なわれた。毎年、選手にとって重みのある大会だが、今年は4年に一度の重さを持つ。オリンピックの代表選考を兼ねているからだ。
かかる重圧は果てしない。競泳の場合、過去の実績などは考慮されないからだ。
個人種目であれば、男子200m個人メドレーと400m個人メドレーですでに内定している瀬戸大也を除き、各種目の決勝で2位以内に入り、さらに派遣標準記録を突破することが求められる(リレー種目は別途、派遣標準記録等選考基準が設定されている)。この基準に達すれば、自動的に代表に内定する一方、クリアできなければいかなる選手であっても代表にはなれない。
公平、透明である一方で、「一発選考」によってのしかかるプレッシャーの大きさに苦しむ姿は、過去にも何度も見られた。
池江の「集中力、出し切る能力は1つも失われていない」
今回も過酷なレースに挑み、壁を乗り越えた選手がたくさんいた。
ここいちばんで力を発揮した選手、という点で、まずは池江璃花子の名前をあげたい。
今大会、4種目に出場した池江は最初の種目、100mバタフライで優勝、メドレーリレーメンバーの派遣標準記録を突破し、五輪代表をつかんだ。
日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは「あそこまでタイムがいくとは」と驚きを見せ、このような言葉で称えた。
「病気をされた状況でも、集中力、出し切る能力は1つも失われていない」
その後の3種目と合わせ、全4種目で優勝し、4×100mフリーリレーの代表もつかんだ。一昨年、白血病と診断されてから今日までの間にあったであろう絶望や葛藤、再起、そうした時間は想像するにあまりある。
それらを経てつかんだ五輪代表の切符は尊い。すでに多くの報道がされている。思い起こされるのは、リオデジャネイロ五輪ですべてのレースを終えたあとのインタビューで池江が語った言葉だ。