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「女性であることがコンプレックスだった」女子ラグビー代表選手がイギリスで気づいた“日本のスポーツ界の問題点” 

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吉田直人

吉田直人Naoto Yoshida

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posted2021/03/01 17:00

「女性であることがコンプレックスだった」女子ラグビー代表選手がイギリスで気づいた“日本のスポーツ界の問題点”<Number Web> photograph by Naoto Yoshida

15人制ラグビー女子日本代表の鈴木彩香。昨年11月にイギリスに渡り、現地でプレーしている

 従来の指導だけでは「受け身の選手」を新たに生むだけなのではないか。個々人が主体的にキャリアをデザインできるように促すことで、結果的に組織としての強さに繋がっていくのではないか――。

 WASPSの選手たちの生き方や、そこで展開されるコミュニケーションを目の当たりにした鈴木は、組織のカルチャーを変える要素はプレーの良し悪し以外にもあると悟るようになっていた。

“森発言”に思ったこと「どこまでも受け身で従順では…」

 2月12日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、日本オリンピック委員会臨時評議員会における女性蔑視発言の責任を取り、同職を辞任した。

 森氏は2015年まで10年間、日本ラグビーフットボール協会の会長に就いていた。2010年に7人制ラグビーが夏季五輪種目に採用されたことに伴い、同協会内に「女子委員会」が設立された。以降、それまでは自費の場合も多かった強化費が支給されるようになり、女子ラグビーの環境が一変。協会のトップだった森氏も、ワールドカップのアジア予選に足を運んでいる。「感謝しかなかった」と鈴木は当時を振り返る。

 英国にいる鈴木にとって今回の森氏の発言は、女性であることと同時に、自らの関心事である組織の構造や、カルチャーのあり方を象徴する出来事として強く印象に残った。

 鈴木は森氏の発言後、Twitterにこう投稿している。

“どの組織もそうだ。スポーツ界のトップが求めるものがそうなら、どこにいたってイエスマンが蔓延る。どこまでも受け身で従順でいることが美の文化では、世界で勝つことは難しいと感じる”

「森さんの発言が“女性差別”というのはひとつの事実です。でも、私にとっての本質的な問題点は、自分の意見を言わない、言えないという組織環境にありました。

 WASPSの選手だったらどうするだろう、考えた時に、即座に声をあげる彼女たちの姿が想像できました。これが世界と日本の差ではないか、と思ったんです」

 英国で風通しのよいチームの雰囲気を目の当たりにした鈴木は、自身が理想とする組織像を今の日本に投影し、言葉を発した。

「日本の女子ラグビー界をリセットしたい」

 自身の集大成となる9月のワールドカップまで半年あまり。だが、コロナ禍の最中で開催の可否は不透明だ。

 とはいえ、引退までの日数を数えるようなことはしない。英国で日々を過ごし、日本の女子ラグビー、ひいてはスポーツ界を変える旅に思いを巡らせている。「日本の女子ラグビー界をリセットしたい」と意気込む。

「日本では、若い選手ほどラグビーひと筋になって、視野が狭くなりがちだと思います。そのために将来に悩んでいるようにも見えます。私も経験してきたことですが、競技人生の後半になるほど、ラグビーしかしてこなかったことが不安になってくるんですね。だから、人生はひとつの道じゃないということを伝えたい。それが、WASPSの選手から学んだことです」

 ひとつの道を邁進することだけが“美”ではない。各々に生き方の“色”があっていいはずだ。時に立ち止まりながら、時間をかけてそのことに気づいた鈴木は、スポーツ界で自らの新たな役割を見出そうとしていた。

 鈴木は言う。

「やりたいことをやる。言うべきことは言う。でも発言に対する責任と相手への配慮を忘れない。そういう人が増えていけば、ラグビー界の、スポーツ界のカルチャーは変わっていくと思います。私も、本質的なことを恐れずに発言していく人になりたい。後輩たちが迷わないためにも」

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